今日の1枚(100)

今日は寒が戻った、というより正常な気温に戻ったようで少し肌寒く感じました。植物は夏の白い花が目立ってきて、卯の花やコデマリをたくさん見掛けます。
今日の1枚も100回目になりますが、今日はフルトヴェングラーのブルックナーです。交響曲第8番ハ短調。テスタメントによる復刻、SBT-1143 という品番です。
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団との録音で、1949年3月14日、ベルリンのダーレム地区にあるゲマインデハウスでの演奏。
プロデューサーもエンジニアも名前の記載はありません。
例によって Alan Sanders が録音の裏話などを書いてくれています。これが極めて面白い。
SP時代、ブルックナーの交響曲録音は極めて少ないものでした。曲の長さがSPに向かなかったことと、ブルックナーそのものがドイツ国外ではほとんど知られていなかったことからです。フルトヴェングラーの正規スタジオ録音によるブルックナーが存在しなかったのも不思議じゃありません。
しかしフルトヴェングラーはブルックナーを得意にしていて、演奏そのものはかなり手掛けていました。
(1・2番は一度も演奏していません。3番は両大戦間に何度か、6番は1943年に集中して演奏しただけのようですが、他は折に触れて取り上げています)
1940年代になってテープレコーダーによる録音が開発され、時代はLPを開発するようになり、フルトヴェングラーのブルックナー演奏もライヴ録音が登場するようになってきます。
テスタメントが復刻した第8番は、当初フルトヴェングラー没後10年を記念してエレクトローラが発売したものです。ところがこれには問題が二つありました。
一つは当時開発された初期の電気ステレオ方式で発売されたこと。第二は、実は二種類の演奏を混ぜ合わせた録音だったことです。
フルトヴェングラーは戦後ベルリンフィルに復帰して間もなく、ブルックナーの8番を3日間指揮します。1949年3月13・14・15日ですね。
13日のものは録音されていませんが、14日は聴衆が入らない放送用の演奏が、15日は聴衆が入るコンサートでのライヴが録音された由。
当然ながらフルトヴェングラーは放送とライヴではかなり異なった演奏をしています。エレクトローラ盤はこれがゴッチャに混じっていたわけ。
で、テスタメントの当盤は14日のテイク、聴衆が入らない録音です。実際に聴いても客席のノイズも最後の拍手もありません。
(15日のライヴもCD化されているそうで、演奏はよりテンポが大きく動く自由なものながら、客席の咳払いなどが酷いようです)
録音そのものは決して悪くありませんが、やはり大編成のオーケストラを隅々まで明瞭に録音するには時代の限界があります。pp の弦やティンパニがほとんど聴き取れず、本当に楽器を鳴らしているのか判らない箇所も出てきます。
フルトヴェングラーが使用しているのは、明らかにハース版。ノヴァーク版は1955年刊ですから、当時は存在すらしていません。
それでも若干フルトヴェングラーが手を加えている箇所があって、判る範囲で列記すると、
第1楽章 239~240小節半ばまでティンパニのトレモロ fff を追加
(第1楽章再現部手前、278と279小節の間に音質が急に変わるところがあってドキッとします。テープ編集の痕跡でしょうか)
第3楽章 209~218小節をカット。
第4楽章 499小節の1拍目にシンバルのクラッシュ加筆。
(第3楽章と第4楽章にヴァイオリン・ソロの指定がありますが、ここもソロなのか複数で演奏しているのかは聴き取れません)

その他フルトヴェングラー特有のアッチェレランドやリタルダンドは限りなく出てきます。一々紹介できない程。
これを捉えてフルトヴェングラーのブルックナー演奏を低く評価する評論家もいますね。しかしテンポを変化させないのがブルックナーの正しい演奏という理屈は何処にもありません。
使用楽譜
ブライトコプフ&ヘルテル Nr.3622(ハース版)

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