日本フィル・第608回東京定期演奏会

日本フィルの2009年春シーズンがスタートしました。年間シーズンを9月開始に変更したので、年間会員としては後期に相当します。
生憎の氷雨、会員の脚が鈍ったのでしょうか、空席が目立つコンサートでした。まだまだ日本では人気作曲家とは言えないエルガー、名前の知られていない指揮者ということも影響したのかも知れません。
ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲二長調
     ~休憩~
エルガー/交響曲第1番変イ長調
 指揮/ジョセフ・ヴォルフ
 ヴァイオリン/渡辺玲子
 コンサートマスター/木野雅之
 フォアシュピーナー/江口有香
日本フィルに初登場の指揮者ジョセフ・ウォルフは、実は英国の至宝サー・コーリン・デーヴィスの息子です。何故「デーヴィス」を名乗らないのかについてはマエストロサロンでも明らかにしていたように、高名な父の名前では活動に制約が付き纏うからとの事。
芸名を考えた時に自分が好きな「狼」が思い浮かんだ、と話していましたけど・・・、ね。
あ、ジョセフは本名だそうですよ。
30代半ばの若者ですが、英国ジャーナリズムではハーディング、ヴォルコフと共に今、最も注目すべき若手指揮者と称えられている逸材です。
プログラムには内田光子からの推薦文も掲載されていました。その一節、“音楽に対する深い理解と愛情がある”というコメントが全てを語っているように思われます。
指揮台にスコアを置き、指揮棒を持って振る人ですが、通常の燕尾服ではなく、ベルベット地の長めのジャケットを着用しているのが変わっています。
楽員に伺ったところでは、イージー・ゴーイングなリハーサルは一切しない人だそうで、細部を緻密に仕上げていくタイプ。予定されたリハーサル時間を目一杯使い、作品全体はゲネプロで初めて通しリハーサルしたのだとか。
特に大きな成果を挙げていたのは、前半のベートーヴェン。普通の協奏曲の仕上がりを遥かに上回り、細部が実に良く彫琢されていたのは、丁寧なリハーサルの賜物でしょう。
ソロの渡辺玲子。彼女を聴くのは久し振りでしたが、相変わらずというより、更にスケール感を増し、その独自な個性が一段と際立ってきたように思いました。竹澤恭子と並んで、我が国ヴァイオリン界の両横綱と賞賛しましょう。
使用している楽器はストラディヴァリスですが、いよいよ楽器が鳴り出し、完全に彼女の手の内に入った感じ。第3楽章冒頭のG線の鳴り方は思わず鳥肌が立つほど。クライスラーのカデンツァも、奔放でありながら知的なアプローチで客席を圧倒しました。
これも伺った話ですが、使用している弓が楽器にピタリと合っている由。ただこれは友人から拝借したものだそうで、プロフェッショナルの音楽家が楽器にかける情熱には並々ならぬものがあります。そして、それはそれだけのことがあるのです。
ヴオルフの端正にして室内楽的アプローチによるベートーヴェンが好対照。久し振りにスリリングなコンチェルトを楽しみました。
エルガーについても同じことが言えるでしょう。細部を揺るがせにしない姿勢、派手なスタンドプレイとは無縁の誠実なエルガー。
ヴォルフはまだまだ若手ですからこれからに期待する部分も多いのですが、ここでは今の彼だからこその瑞々しさを聴くべきでしょう。
ヴォルフは今回が指揮者としての日本デビューですが、今年の9月には大阪センチュリーでエルガーとハイドン、来年1月には札幌交響楽団でベルリオーズとシベリウスを振ることになっています。
関西と北海道の皆さん、この機会に彼を聴いておけば、30年後、40年後に若きヴォルフをナマで聴いたことを次の世代の音楽ファンに得意気に語れる日々がやってくるでしょう。是非、会場に出掛けて新しい才能に触れてください。
この日はプログラムに来シーズンの速報が挟まれていました。既に噂されていたピエターリ・インキネンが日フィルの首席客演指揮者に就任するとのニュース。その第一弾が今年9月のショスタコーヴィチです。
また今回見事なベートーヴェンで唸らせた渡辺玲子、来シーズンは首席ラザレフと横浜でシベリウスを弾きます。
ラザレフ/インキネン体制に急変貌した日本フィル、来年には大物日本人指揮者の初登場も噂されています。益々目が離せなくなりますが、九州のファンにもサプライズが待っているようですよ。こちらも乞うご期待。

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