今日の1枚(70)

予習を兼ねた1枚は少しお休みしていつものスタイルに戻ります。先は長い、あれこれ摘み食いをしていると何を聴いたのか判らなくなりそうなので、テーマを決めて集中的に聴いていくことにしました。
私は古い録音、それもモノラルが好きなので、往年の名指揮者を続けて取り上げましょう。やはりフルトヴェングラーから始めることにします。
東芝EMIの「永遠のフルトヴェングラー大全集」から、TOCE-3722 。
①ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調作品67
②ベートーヴェン/「レオノーレ」序曲第3番ハ長調作品72B
③②の練習風景
①は1954年2月28日と3月1日、ウィーンのムジークフェラインザールでの収録。ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
②は1948年11月13日、ストックホルムのコンサートハウスでのライヴ収録で、ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団の演奏。
③は②の前日、同じ場所で行われたリハーサルの一部です。
①のプロデューサーは Lawrence Collingwood 、エンジニアは Francis Dillnutt 、②と③は不明。
①はフルトヴェングラー最晩年の正規スタジオ収録。私はフルトヴェングラー・マニアではありませんから、無数に出ているライヴ発掘音源を集める趣味はありません。フルトヴェングラーのベートーヴェン第5は、これ1枚あれば充分と考えている人間です。
録音は当時の最高クラスですが、一部にテープ劣化?に伴う乱れがあるのは止むを得ないこと。(第4楽章展開部の冒頭など)
演奏はライヴ特有の緊迫感こそ不足しているものの、この巨匠の演奏スタイルが明瞭に記録されています。
第1楽章の繰り返しは実行。再現部303小節からのファゴットはホルンに置き換え。
第4楽章の繰り返しは省略。132~135小節の木管にホルンを重ねるのは当時の伝統的加筆。
第4楽章になるとフルトヴェングラーが次第に熱を帯び、鼻息とも気合とも取れるような息遣いも収録されています。
②はストックホルムに客演した際のライヴ。たまたまこのCDに含まれているので聴いたもの。フルトヴェングラー・ファンでなければ聴くに耐えない録音です。
序奏の27小節目、弦の細かい動きは全く聴き取れません。録音の所為ばかりではないような気がします。
454小節のティンパニ加筆、629と631小節のホルン加筆も貧しい録音ながら聴き取れます。
面白いのは、コーダの最後でティンパニのトレモロが途中で切れてしまうこと。ブックレットの解説(平林直哉)によれば、奏者がバチを落としたか折れたかのいずれか、と解説されていますが、最後の和音ではティンパニがキチンと鳴らされています。もしアクシデントなら勢い余った音が入るはず。恐らく奏者の数え違いと思われます。
③はフルトヴェングラーの練習スタイルが判る貴重なテープ。ブックレットには渡辺護氏の対訳が掲載されていて便利です。
ポイントは二つ。
第一は、ホルンに“倍加されていますね”と確認するところ。これによって倍管による演奏であることが証明されます。
第二は、“そこには大きなクレッシェンドが書いてありますか? ない? では書き入れてください”と指示していること。つまりフルトヴェングラーは、自身の解釈で楽譜に手を加えていることが判るのです。
参照楽譜
①ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.1
②オイレンブルク No.914(歌劇「フィデリオ」全曲版)

 

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