今日の1枚(8)

フルトヴェングラーの3枚目は、やや珍しいレパートリーです。 モーツァルトのセレナードを二つ、ウイーンフィルの管楽器メンバーとの「グラン・パルティータ」と同じくウィーンフィルの弦楽器メンバーによる「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。
東芝EMI の全集から TOCE-3706

①モーツァルト/セレナード第10番変ロ長調「グラン・パルティータ」
②モーツァルト/セレナード第13番ト長調「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」

録音は①が1947年11月10日と12月3日、ウィーンのブラームスザールでの収録。②は1949年4月1日に同じくウィーンのムジークフェラインザール。
プロデューサーはどちらも Walter Legge 、エンジニアは①は不明、②は Douglas Larter 。
要するにモーツァルトのセレナーデ2曲を組み合わせたもので、どうということもないように見えますが、内容は中々興味深いものがあります。

①は録音年代から想像されるように、レンジも狭い上にノイズも目だってオーディオ的には満足できるものじゃありません。
一方の②はやや新しいだけあって聴き易くなっています。
それより注目されるのは両曲での繰り返しの扱いでしょうか。
一言で言えば、①はその繰り返しをほぼ全て実行し、②はほぼ全て省略しているということでしょう。同じセレナードについて何故このように態度が違うのかは不明。

繰り返しを実行している①についても、良く聴いてみるとやや疑問も出てきます。
これはフルトヴェングラーが戦後の復帰後最初の録音というところがミソで、第1楽章ではかなり興奮したフルトヴェングラーが聴かれます。即ち、足踏みが激しいし、唸り声も大きく収録されています。
面白いのは、第1楽章提示部の繰り返しで、全く同じ箇所で足踏みと唸り声が聴こえること。恐らく実際の演奏では繰り返しはされず、後でエンジニアがテープを細工して繰り返したように創り出したものだと思われます。
この演奏で繰り返しが省略されているのは、第2楽章第1トリオの後半。ここは単純なリピートではなく、1番括弧・2番括弧で別の音符になりますから、エンジニアの細工が不可能な場所です。
同じ意味では、第6楽章の第4変奏の後半。ここは1番括弧・2番括弧共に演奏していますから、正真正銘の繰り返し実行です。
この変奏曲。それぞれの変奏の後に僅かにパウゼを置き、全体を一つの流れで演奏していないのも特徴です。

もう一つ重要なポイント。
この演奏ではオリジナルのコントラバスを使わず、コントラファゴットで代用しているのも注意点。故に、「13管楽器のためのセレナード」という別称を地で行っている演奏でもあります。
一方の②は、第3楽章と第4楽章冒頭の繰り返し以外は全て省略しています。全体の演奏時間が14分チョッとというのは如何にも短い。
①②共に演奏自体はイン・テンポで進められ、その点では端正と称してよい演奏。

参照楽譜 ①オイレンブルク No.100、②はユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.366

 

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