はじめのいっぽ

引退生活の楽しいところは、どんな音楽会でも気兼ねなく出掛けられるところでしょう。行きたいコンサートが重ならない限り、昼だろうが夜だろうが、国内であろうが海外であろうが・・・。
もちろん資金という障害があるのは事実であって、これをクリアーすることが大前提ではあります。
去年までなら、行きたくとも指を銜えて見ていなければならなかったコンサート。
ライフ・サイクル・コンサート《はじめのいっぽ》
Vol.12 ~ピアノ~
モーツァルト/「ああ、お母さんに聞いて」による12の変奏曲K265
ドビュッシー/ベルガマスク組曲~「月の光」
ドビュッシー/前奏曲集第1巻~「沈める寺」
滝廉太郎/憾み
武満徹/雨の樹 素描
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番ハ短調作品13「悲愴」
リスト/パガニーニによる超絶技巧練習曲第3番「ラ・カンパネラ」
 ピアノ/小川典子
午前11時30分開演、第一生命ホールで行われているシリーズです。ホールとNPOのトリトン・アーツ・ネットワークが主催している、夜のコンサートには行き難いクラシック・ファン向けのミニ・コンサートですね。文化庁芸術拠点形成事業の一環でもあります。
ミニといってもご覧になれば判るように、本格的なピアノ・リサイタルです。ただし、正味は凡そ1時間、休憩はありません。それがまた、我々にはありがたい。腹七部くらいの内容で、満足感はお腹一杯。
小川典子は確かこのシリーズは初登場だと思いますし、このホールも初めてじゃないでしょうか。少なくとも私は彼女をここでは初めて聴きました。
いつもクァルテットで通っている第一生命ホール、ピアノ・リサイタルには理想的な空間と音響。今日は小川典子を200%楽しみました。
「言うこと無し」
いつものように立て板に水のトークを挟み、多彩なプログラムを可能な限りの繊細さとダイナミズムで堪能させてくれます。
午後も仕事に向かう人達のために “元気の出る一発” ガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」をアンコール。
コンサートが終わってホールを出ると、丁度ビジネス戦士たちの昼休み。ここには大食堂も完備していますが、有名店がお弁当をズラリと並べ、ビルから一歩も出ずに一日の仕事に邁進できるシステムが構築されているのです。
この戦場からは既に解放された私は、確実に春の足音が近づいている晴海の午後を楽しんだのでした。
何と素敵な引退生活じゃありませんか。「隠居」というネガティヴな言葉をポジティヴに変えてくれる素晴らしいコンサートです。
是非、アンコールを。

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