今日の1枚(78)

今日から2回に亘ってフルトヴェングラーのワーグナー名曲集を取り上げます。東芝EMIの「永遠のフルトヴェングラー大全集」ではワーグナー管弦楽曲集が4集まであったと思いますが、私が手に入れたのは第1集と3集だけ。理由は、スタジオ録音で音質の良いものだけで充分と考えたからです。

さてワーグナーの音楽を楽譜を見ながら聴くには三点ほど問題があります。
最初の二点は歌劇・楽劇の全曲を聴く場合にも当て嵌まること。
(1) ワーグナーのスコアは実に見難いということ。初期の作品は別にして、スコア上の楽器の並べ方が変わっているのですね。
まず管楽器。普通は上から木管、金管が高い順に並べられますが、後期作品ではホルンがクラリネットとファゴットの間に書かれています。更にバス・クラリネットがファゴットの下に書かれている。
声楽パートについては、普通なら打楽器と弦楽器の間に書かれるのに、ヴィオラとチェロの間に置かれている。
(ベートーヴェンのミサ・ソレムニスもこのパターンですがね)
その結果、実にスコアが見難い。

(2) 楽譜のサイズ。今でこそ大型スコアが廉価で出回っていますし、オイレンブルクの新版は大型化していますが、私がこれらを買い求めた頃は所謂ポケットサイズの版しかありませんでした。
このサイズでは楽器編成が膨大なページでは1ページに収まらず、楽譜を縦に2ページ使って印刷されている箇所がたくさんあるのですね。
この箇所では、楽譜を90度回転させて見なければならず、実に不便です。楽譜を固定して自分の体を90度回転させる方法も試みましたが、いずれにしても見難いことは確か。

(3) 管弦楽曲の抜粋曲についてです。歌劇の序曲などは良いのですが、楽劇の一部をオーケストラだけで演奏する場合、彼方此方を継ぎ接ぎするケースが出てきます。例えば「神々の黄昏」の「夜明けとジークフリートのラインへの旅」が挙げられましょう。
これも「管弦楽曲」として別にスコアが出版されているものもありますし、指揮者の判断でオリジナルの体裁に近くする場合もあります。
全曲録音盤からエンジニアが切り取る場合もあります。
これらを楽譜を参照して聴くのは真に骨が折れること。

以上を前提に、第1集 TOCE-3752 を聴いてみました。
①ワーグナー/歌劇「タンホイザー」序曲
②ワーグナー/歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
③ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」夜明けとジークフリートのラインへの旅
④ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」ジークフリートの葬送行進曲
⑤ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」ブリュンヒルデの自己犠牲
演奏はウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮で、⑤以外はウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、⑤はフィルハーモニア管弦楽団。⑤ではブリュンヒルデ役のソプラノ、キルステン・フラグスタートが加わります。
データは、

①1952年12月2・3日
②1954年3月4日
③1954年3月8日
④1954年3月2日
⑤1952年6月23日

録音場所は①~④がウィーンのムジークフェラインザール、⑤はロンドンのキングスウェイホールです。プロデューサー名等は記載なし。

②~④は同じ時のセッション、①もそのわずか1年チョッと前の録音ですから、レヴェルはほとんど同じ。フルトヴェングラーのスタジオ録音でも最も優れたものに挙げられるでしょう。

これに比べると⑤はやや高音の伸びを欠き、質的には劣る感じは否めません。そもそも楽器編成が膨大な作品ですから、当時の録音技術ではカバーし切れない部分もあったのでしょう。声とオーケストラのバランスも難しかったことが想像されます。

①は所謂ドレスデン版の序曲で、最後は巡礼の主題で堂々と終わる版。

②も特に楽譜上で指摘することはありません。

③は冒頭にも書いた問題曲。普通にこれを演奏する場合にはフンパーディンク編曲版が使われます。カーマスやラックなどの出版譜がそれですが、私はこれを所有していませんので、明確なことは判りません。
(小節数や楽器編成に加筆があるのだそうです)
この録音では、夜明けの部分と、ジークフリート・ジークリンデの別れ(序幕)から第1幕の手前までを上手く繋いでいます。

オイレンブルク旧版には小節数も練習番号も記されていないのでスコアのページ数で紹介すると、
64ページの6小節目から72・73ページ(縦書き)の5小節目まで続け(夜明け)、130・131ページの4小節目に飛びます。(この間全てカット)130・131ページの4小節目から198ページの14小節目(即ち、序幕の最後)までは続けて演奏。もちろんこの間に出てくる声楽は全てカットされています。

④を単独で演奏する場合には、終止の仕方が問題になります。オイレンブルクでは誰の編曲かは明記されていませんが、全曲版に6小節分の終止加筆を加えたスコアを出版しています。
フルトヴェングラーは、このオイレンブルク版と同じものを演奏しています。尚、このスコアでは問題点(1)と(2)を改善し、見やすいスコア段組になっているのが有難い所。

⑤は多くがそうであるように、全曲版の1241ページの1小節目から最後までを通して演奏しています。もちろん最後のハーゲンの叫びはカット。

参照楽譜
①オイレンブルク No.903(歌劇全曲版)
②オイレンブルク No.904(歌劇全曲版)
③オイレンブルク No.910(楽劇全曲版・第一分冊)
④オイレンブルク No.811(葬送行進曲のみ)
⑤オイレンブルク No.910(楽劇全曲版・第二分冊)

 

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