今日の1枚(158)

トスカニーニのワーグナー名曲集第二巻はBVCC-9924 、

①ワーグナー/歌劇「タンホイザー」序曲とヴェヌスペルクの音楽
②ワーグナー/楽劇「ワルキューレ」ワルキューレの騎行
③ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」夜明けとジークフリートのラインへの旅
④ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」ジークフリートの死と葬送行進曲
⑤ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死

録音データは、

①1952年11月8日 NBC放送録音 カーネギーホール
②1952年1月3日 カーネギーホール
③1949年12月22日 カーネギーホール
④1952年1月3日 カーネギーホール
⑤1952年1月7日 カーネギーホール

①のみ聴衆が入った放送用コンサートのライヴ録音、他は全てセッション収録です。
③以外はトスカニーニとしても最後に近い録音で、音質は極めて優秀。③も若干古いながら他と比べても遜色ない優秀録音だと思います。

①は、通常に演奏される序曲の途中からパリ版のバッカナールに続く演奏。
パリ版バッカナールを演奏会で取り上げる場合には、水の精の合唱を木管楽器に置き換える編曲版で演奏する(オイレンブルク版など)のが普通ですが、トスカニーニは木管でなく弦楽器で演奏しているのが珍しいところ。
即ち249~267、299~306の2か所は、上記オイレンブルク版スコアの前書に参考として掲載されているアレンジを使用しているのです。その意味でも貴重なドキュメントと言えましょう。

なお、序曲の149小節目にティンパニの加筆があります。

②は演奏会用にアレンジされた版による演奏。この曲のアレンジも何種類かあるようで、トスカニーニが使用しているのは、オイレンブルクから出版されているエンディング。誰のアレンジかは楽譜にクレジットされていません。

トスカニーニは当アレンジをそのまま譜面通りに演奏するのではなく、ヴァイオリンに出るワルキューレの叫びの動機を歌手のメロディーラインに合わせて変更する配慮を行っています。
(オイレンブルク版スコアの24~25ページと、65~66ページ)

③も同様に演奏会用アレンジ。手元にスコアがありませんが、これは間違いなくエンゲルベルト・フンパーディンクによる編曲。「夜明け」と「ラインへの旅」の接続箇所は、以前に紹介したフルトヴェングラーと同じ。
ただしエンディングはフンパーディンクか書き加えた終結部による演奏です。

④は「ジークフリートの死」と「葬送行進曲」となっているところがミソで、トスカニーニはハーゲンがジークフリートの背中を刺し、ジークフリートが過去を思い出す場面の音楽から後を葬送行進曲まで続けて演奏しています。
オイレンブルク全曲版のスコア(旧版)では、1149ページの3小節目以降で、行進曲のエンディングはオイレンブルク版の編曲(これまた編曲者不詳)を使用。
(ジークフリートの最後の歌唱部をトランペットに吹かせる編曲もあるそうですが、トスカニーニのは歌唱部をカットし、管弦楽部のみを演奏するスタイル)

葬送行進曲の最初のティンパニ・ソロの連打、ハ♯の次に出るホ(E)を1オクターヴ下げているのが独特。これによって不気味さが一層加わるのは、トスカニーニならではでしょう。これに言及している批評家がいないのも不思議じゃありませんか。

⑤は楽譜上の問題はありません。最後の「愛の死」はもちろん歌唱部抜きの演奏。

全体にトスカニーニのワーグナーはテンポがゆったりしていて、スケールの大きさが聴きどころ。もっと評価されて良い演奏だと思慮します。

参照楽譜
①オイレンブルク No.904(歌劇全曲版)及びオイレンブルク No.814(パリ版のバッカナール)
②オイレンブルク No.807
③オイレンブルク No.910(楽劇序幕と第1幕全曲版)
④オイレンブルク No.910(楽劇第2・第3幕全曲版)及びオイレンブルク No.811(葬送行進曲)
⑤オイレンブルク No.649

なおこのカテゴリーは、体調不良のため暫くお休みします。

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