二期会スペシャルコンサート・ヴェルディ「レクイエム」

ミューザ川崎のサマーフェスタが一段落。旧盆の期間でしたが、二期会スペシャルコンサート、夏のヴェルディ・フェスティヴァルを聴いてきました。
8月12日と13日、初台の東京オペラシティ・コンサートホールで行われた公演、私が聴いたのは二日目、当日になって気が付きましたが、13日の金曜日でした。

ヴェルディ/レクイエム
 管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団
 指揮/アンドレア・バッティストーニ
 ソプラノ/木下美穂子
 アルト/中島郁子
 テノール/城宏憲
 バス/妻屋秀和
 合唱/二期会合唱団(合唱指揮/佐藤宏)

これは、2020年7月に予定されていた公演が延期されたもの。もちろんコロナ以前に企画・発表されていたもので、私も2020年の時点でチケットを購入し、延期に伴って新しくチケットを交換してもらいました。
当初はダニエーレ・ルスティオーニが指揮する予定でしたが、直前になってバッティストーニに交替。ルスティオーニが待機期間に伴うスケジュールの都合が付かず、来日不可となったためです。バッティストーニは先日のフェスタサマーミューザでも東フィルと快演を繰り広げたばかり。二期会にとっても渡りに船だったと言えるでしょう。

開演30分前の18時半に会場に入ると、ホワイエでは撮影クルーが活動しています。貼り紙があり、経済産業省が文化コンテンツの海外展開を支援する「コンテンツグローバル需要創出促進事業(J-LODive)」参加公演として記録し、後日、二期会のユーチューブ・チャンネルから配信される予定とのこと。感染予防対策の様子などを撮影しましたが、うっかりすると映ってしまうと思い、早々に客席へ。
例によってプログラムは自主的に手に取るのですが、簡単な冊子(たった4ページ、中身は2ページ)は出演者のプロフィールのみで、曲目解説等は一切無し。イタリア大使館等の後援というクレジットが片隅に小さく記されていました。

初台は拙宅からは行き難いこともあり、やや久し振り。決して大きくないホールなので、ここでヴェルディのレクイエムはどうよ、とも思いました。
しかし考えてみれば舞台上でも密を避ける必要がある現在、人数を減らして演奏することにより、大音量の飽和感も若干緩和されるのではないか。予想通り、音響的には満足のいく結果が得られたと感じます。

弦楽器は10-8-6-6-4と小振り。合唱は各パート12名づつ、オルガン下のP席から2階席左右の途中までを占めます。2階の合唱席は、ステージより少し客席側まで張り出しており、指揮者は普段以上に右に左に大きく体を揺らせなければなりません。ために、バッティーのプロフィール(横顔)が良く見えること。
ディエス・イレでのトランペット4本のバンダは、その箇所だけ登場した奏者が舞台奥の上手・下手に分かれて吹奏しました。なるほど、こういう手もあったか。

バッティストーニの周りも広く開け、暗譜のマエストロも目一杯大きな動きで指揮できましたから、ただでさえ動きが大きいマエストロも一段と気合が籠っていた様子。
それを反映し、大変な熱演になりましたね。4人のソリストは二期会を、そして日本を代表する名歌手ばかり。舞台上で横に広く並んでいたこともあり、各パートが明瞭に聴き分けられるという効果も生んでいたようでした。

特に第2章、ディエス・イレは圧巻。極めて速いテンポで演奏され、大太鼓は皮も破れんばかりに撥を叩き付けます。その様子は、正に怒りをぶつけるよう。
思えば去年の初めから2年近く、演奏家も聴き手も様々な怒りを募らせてきました。その気持ちを一気に吐き出すような「怒りの日」。音楽界全体の思いをぶつけるような激しさがあったからこそ、バスが呟くように歌う Salva me がひしひしと伝わってくるのでした。ここ、鳥肌が立ちましたね。

ヴェルディのレクイエム、書かれたのは1874年ですが、今回の災厄にこれほど相応しい音楽はないのではないか。恰もヴェルディが今日の状況を予測していたのではないか、とさえ感じてしまいました。
全曲が長調に転じて静かに閉じられた後、ホールを支配した静寂はどれほど続いたのでしょう。私が体験した沈黙の時間の中で、最も長かったのではなかろうか。正に黙祷の一刻でしたね。

終演は午後8時半。外は雨が降りしきり、まるで人々の涙を象徴しているようでもありました。

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