読売日響・定期聴きどころ~08年4月

 4月定期でスクロヴァチェフスキが指揮するのは唯一曲、ブルックナーの交響曲第5番です。ブルックナー・ファンでなくとも注目されるコンサート。スクロヴァチェフスキが首席指揮者に就任する、という噂が流れた時から期待していた人も多い演目です。
まず日本初演。
1962年4月18日 大阪フェスティヴァル・ホール オイゲン・ヨッフム指揮アムステルダム・コンセルトへボウ管弦楽団。
大阪国際フェスティヴァルにコンセルトへボウが登場、初来日のときに取り上げられたのが日本初演でした。このときは、モーツァルトのプラハ交響曲が前半に演奏されています。東京では同じプログラムが4月30日、東京文化会館で繰り返されています。
日本人というか、日本のオーケストラでは、1963年5月23日の京都会館、ハンス・ヨアヒム・カウフマン指揮・京都市交響楽団が最初ですが、今や伝説となっている「響かない」京都会館でのブルックナー、どんな感じだったんでしょう。聴かれた方おられますか。
私はこの次、1967年11月のマタチッチ指揮N響定期で聴いたのが忘れられません。ほとんどブルックナー初体験の頃ですし、版などの問題もほとんど話題にならなかった当時、純粋に音楽の大きさに圧倒されたものです。第4楽章に金管のバンダを加えた演奏だったと記憶しています。このときはモーツァルトの小ト短調が前半に置かれていましたが、腰が抜けるほどの感動を味わいました。
次に楽器編成。
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、弦5部というオーソドックスな2管編成。マタチッチの想い出で触れたように、第4楽章で金管を追加する場合もあるようです。
第5は、いわゆる版や稿の問題はありません。1935年にはハース版、1951年にはノヴァーク版が出版されていますが、同じものでしょう。でしょう、というのは、私が所有しているのはハース版のみ。ノヴァーク版は見ていませんが、録音などで聴く限り、違いは見出せません。
カヒス通し番号では第7番に相当します。
 

                                            楽譜 012

聴きどころですが、ブルックナーの交響曲はほとんど全てが同じパターンで作曲されています。ただし第5については、第1楽章に序奏が置かれているのが珍しいと言えましょう。低弦のピチカートで始まりますが、この形をよく覚えておくと、全体の構造がよく理解できると思います。
更にこの第1楽章、序奏が長い割には全体が短く、全曲への序奏という感じになっているのも面白いところではないか、と私は考えています。
最大の聴きどころ、というか見所は第2楽章のアダージョでしょう。この緩徐楽章も、番外編で扱った第2交響曲で触れたように、ブルックナー独特の5部形式になっています。A-B-A-B-Aですね。
それでAの部分の出だしは、耳でだけ聴いていると6拍子のように聴こえます。しかしこの楽章は全体が4拍子で書かれているのですね。つまり最初は3連音符の連続になっていて、一聴すると6拍子のように聴こえる仕掛け。
これは指揮者にとって実に難しい箇所ではないかと思われます。というのは、直ぐに出てくるオーボエによるテーマは純粋に4拍子。音価が正確には揃いません。この程度のことはプロの指揮者とオーケストラにとってはなんでもないことかもしれませんが、素人目には、指揮者がどのような振り方でオーケストラをコントロールして行くのか気になるところ。私にとっては、ここが最大の見所なのです。
あとは第4楽章。ここにも序奏が置かれていますが、ここでは、これに先立つ第1楽章と第2楽章の断片が出てきます。誰でも“ははぁ~ん” と気付くはずですが、明らかにベートーヴェンの第9交響曲の影響でしょう。出だしだけ聴いていると、第1楽章なのか第4楽章なのか定かでないところが面白い。
このフィナーレ、やはり音楽的には最大の聴きどころでしょうね。特に金管楽器によるコラール、ブルックナー自身がスコアに「コラール」と書き付けて(練習番号580の3小節目)いる位です。ここを強調するために金管を補強したくなる指揮者がいても当然のような気もします。
シンフォニーに於けるコラール。マーラー、特にアルマ・マーラーが痛烈に皮肉った箇所ですね。それがこの第5交響曲ではないか、と思えてきます。読売日響のブラス・セクションのパワー、想像するだけで気持ちが踊ってくるようですね。
スクロヴァチェフスキは、スコアの隠された部分にも光を当てるマエストロ。作曲家が書いた以上、聴こえなければならない、との考えでしょう。彼が残している録音の第5にも、いくつかそういう箇所が出てきます。それが何処かは、皆様の耳で確かめて下さい。

 

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