京都市交響楽団・東京公演2021

いやいや、これは凄い演奏会でした。どんな美辞麗句を並べても、この公演の感動を表現するのは無理でしょう。
とは言ってもどんなコンサートだったのか、記録だけでも紹介しておきましようか。

2008年から京響を率いてきた広上淳一が2021-22シーズンを以て退任、いや卒業するというニュースは今年の初め頃に耳にしていました。このコンビとしては最後となる東京公演を開催するという情報は、確か今夏のサマーミューザに京響が客演した際、チラシとして挟まれていた時に知ったと思います。
本来なら京都に遠征し、彼らの最後の共演を目撃すべきでしょうが、先の見通せない現在、県境を越えてのコンサート紀行には躊躇いがありました。そんな時にオーケストラが東京に来てくれる。この絶好のチャンスを逃す手は無いと、京響のホームページでチケット発売予定をチェック。発売初日に無事良席をゲットして心待ちしていた次第。図らずも三日連続の演奏会通いとなってしまいましたが、そんなことは言ってられません。
ということで聴いてきました、このプログラム。

ベートーヴェン/交響曲第5番ハ短調作品67
     ~休憩~
マーラー/交響曲第5番嬰ハ短調
 指揮/広上淳一
 コンサートマスター/石田泰尚

ベートーヴェンとマーラー、二人の交響曲作曲家の第5を並べた王道プログラム。夏のミューザで選曲の意図を尋ねられた広上曰く、ボク5月5日生まれなんですよ。半分は冗談でしょうが、京響との総決算の意味を込めて二つの第5を並べる。これほど最後に相応しい東京公演は無いでしょう。
最後というキーワードが響いたのか、チケットは残席僅かまで人気になっていたようで、開演1時間前に前売り窓口に並んだ人たちが最後のラッキー・チケットをゲットできたのかもしれません。

会場のサントリーホールも、いつもの都内のコンサートとは雰囲気が違っていました。明らかに京都からの応援団と思しきグループも散見され、華やかな中にも緊張感が漂います。
チケットも完売寸前だったようで、隅の席まで埋まっている。コロナ明けの演奏会解禁以後、私が経験したコンサートでは最も客席が埋め尽くされていたコンサートと言えそう。一時的かも知れませんが、感染の波が沈静している時期に当たっていたのもラッキーでした。

指揮者もオーケストラも、この特別な雰囲気を意識したのでしょうか。とにかく通常のコンサートとは意気込みがまるで違っていましたね。気迫が凄く、座っているだけで圧倒されるほど。
2曲とも広上淳一得意のレパートリー。特に前半のベートーヴェンは、これまでも様々なオーケストラとの共演を聴いてきました。しかし今回は、明らかにテンションのレヴェルが違う。
アンサンブルは必ずしも完璧じゃありません。時に縦線が合わなかったり、個々の楽器にしても音が滑ったり、落ちたりもする。しかし音楽は、そういうことが問題じゃない。技術の完璧さを追求してばかりでは失われることの方が多い。彼らは恰もそう主張しているように、とにかく細かいことには拘らず、音楽の流れが強靭で、表現の幅が桁違いに大きいのです。

私が指揮者・広上淳一を知ったのは、彼がN響定期に初登場したのをテレビで見た1991年2月と、同年9月に日本フィル正指揮者就任披露となった9月定期をナマで初体験した時。この時の破天荒な指揮振りに雷に打たれたようなショックを覚えたのですが、それから30年、その指揮もより恰幅が大きくなる半面、ある意味で毒が薄まったようにも感じていました。円熟、という言葉で表現すべきでしょうか。
しかし2021年11月7日の広上淳一は違っていた。どうしちゃったのマエストロ、と声を掛けたくなるほど。指揮台上で飛び上がるは、舞台狭しと暴れまくるは、オケを縦横無尽に鼓舞するは・・・。

これに応える京都市交響楽団が、また凄い。何しろ今回は石田泰尚、泉原隆志、会田莉凡のコンサートマスター3人の揃い踏み。ファースト・ヴァイオリンだけでなく、メンバー全員の目付き、気迫が只者じゃない。私の眼前は第1ヴァイオリン群でしたが、メンバー全員が一糸乱れず、広上の棒に喰らい付く。
これほど熱量の高いベートーヴェン第5は聴いたことが無い、と言えるほどでしたし、これほどスリリングなマーラー第5は初めて、と断言しても良いかも。ハープを第2ヴァイオリンとチェロの間に据えたアダージェットでは、広上も思わず唸る。とてつもなく密度が濃い弦楽合奏。トランペットのハラルド・ナエス、上手いなぁ~。ホルン・チーム、凄いなぁ~。

いくら言葉を並べてもこの日の感動を伝えるのは無理、と書いちゃいましたが、ゴタゴタと並べ過ぎましたね。
京響の東京公演2021、将来の語り草となる公演だったことは間違いなし。これじゃ来年3月、広上マエストロの京響常任指揮者としての最終公演も考慮しなくちゃならんぞ。

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