今日の1枚(93)

ウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮フィルハーモニア管弦楽団によるワーグナーの楽劇「トリスタンとイゾルデ」の第2幕。
この幕で新たに登場する歌手は二人です。
メロート/エドガー・エヴァンス(テノール)
マルケ王/ヨーゼフ・グラインドル(バス)
エヴァンスに関する情報は辞典等には掲載されていません。ブックレットを引用すると、1914年6月9日生まれのイギリスのテノール。1946年からコヴェント・ガーデンと契約しているそうです。録音の時は38歳になったばかり。この録音がロンドンで行われたことによるキャスティングでしょう。
グラインドルは1912年12月23日生まれのドイツのバス。録音時は39歳でした。バイロイトは1943年に初登場(名歌手のポーグナー)、1951年から1970年にかけてバイロイトの主要バス歌手として欠かせない存在。私も日生劇場で素晴らしいオランダ人に接したものです。
1993年4月16日にウィーンで死去。
フルトヴェングラーの「トリスタン」全曲録音には有名な逸話が残っています。それはフラグスタートの影武者にシュワルツコップが使われたという話。当時56歳のフラグスタートが、声が出難くなった高音の一部をEMIのレッグが勝手にシュワルツコップの声と差し替えたというもの。
どうも影武者の使用はフラグスタート本人が依頼したようで、そのことをバラしてしまったレッグに対して憤慨したというのが事実のようです。
で、その高音は恐らく第2幕にだけ出てくるハイCのことだろうと思われます。スコアのページ数で言うと、420ページと424ページに出てきますが、ここを注意深く何度聴いても、別人の声であるようには聴こえません。もちろん差し替えているなどということは微塵も感じさせない仕上がりです。シュワルツコップ自身が聴いても判別不可能とのこと。ここは気にせず通過しましょう。
第2幕は全体で87分ほどかかります。当然ながら途中で2枚目から3枚目に取り替えなければなりませんが、スコアで言うと601ページの中程。第2場の有名な「愛の二重唱」の後です。
各場のトラック箇所は、第2場が2枚目のほぼ5から、第3場は3枚目のほぼ2からとなっています。
昨日も指摘しましたが、本来の「場」の頭ではなく、歌詞の冒頭にトラックが付けられているのが当盤の特徴。
このことは「場」に限らず、例えば「愛の二重唱」についても同じ。トリスタンの “ O sink ” という歌詞の頭にトラック6が付けられていますが、この二重唱の伴奏がスタートするのはその5小節前。
この伴奏音型はブルックナーが第8交響曲のアダージョにそっくり利用していることでも有名でしょ。その事を確認するために利用しようとしても、当盤のトラック6では上手くジャストミート出来ませんね。
この録音では、その二重唱の始まる前の伴奏で、恐らくズートハウスが声を整えるためにゴホン、エヘン、とやっている音も見事に収録されてしまっています。
LPではノイズに隠されて判りませんでしたが、CDでは全部聴こえてしまっています。
参照楽譜
オイレンブルク No.905

 

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