今日の1枚(97)
昨日はベイヌムの命日、今日はヘンデルの命日ですが、それらには関係なくフルトヴェングラーの続きです。
今回から何枚かテスタメントのリリースを聴きましょう。
テスタメントは独自の新録音もありますが(イダ・ヘンデルのバッハ無伴奏など)、ほとんどは旧カタログの復刻レーベルです。
ただし著作権切れ音源を勝手に復刻する某レーベルと違って、原盤権のあるレーベルと交渉してライセンスの供給を受けているのが特色。フルトヴェングラーの何枚かもEMIが保管しているオリジナル・マスターからの復刻です。私が最も信頼している復刻レーベルの所以。
ただし商品としては必ずしも万全ではなく、データ記録面に傷があって上手くトレース出来ないものも散見されます。
しかしブックレットは充実していて、あっと驚く内容がオリジナル録音のプロデューサー等によって明かされているものもありますね。その意味では商品価値は本家盤より高いかも知れません。
テスタメントから出ているフルトヴェングラーの1枚目は SBT-1109 という品番。
①ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲二長調作品61
②ベートーヴェン/ロマンス第1番ト長調作品40
③ベートーヴェン/ロマンス第2番へ長調作品50
ヴァイオリン・ソロは全てユーディ・メニューイン、管弦楽は①がルツェルン祝祭管弦楽団、②と③がフィルハーモニア管弦楽団。
データは、
①1947年8月28日と29日 ルツェルンのクンストハウス
②③1953年4月9日 ロンドンのキングスウェイホール
プロデューサーは①が Walter Legge 、②と③は Lawrence Collingwood と David Bicknell 、エンジニアは①は不明、②③は Douglas Larter のコンビです。
つまり協奏曲は昨日取り上げたべトーヴェンの旧録音、ロマンスは新録音の翌日に行われたテイクで、EMI本家のデータと一致しています。さすが。
テスタメント盤のブックレットは Alan Sanders の執筆。昨日のEMIと同じ書き手。
①はフルトヴェングラーとメニューインの初顔合わせ。フルトヴェングラーは1933年にナチスが政権を取ってからもドイツに留まりました。この年、ヒットラーの政策を無視して3人のユダヤ人演奏家をベルリンフィルのソリストに招きます。即ちアトゥール・シュナーベル、ブロニスラフ・フーベルマン、ユーディ・メニューインですね。
このときは3人とも出演を辞退。
しかしメニューインは1945年にフランスを訪れた時、フルトヴェングラーがあらゆる手段を講じて多数のユダヤ人音楽家を助けたこと、ナチのプロパガンダとしてのベルリンフィル占領地ツアーを拒否したことを聞き、戦後の非ナチ化裁判でフルトヴェングラー擁護に動いたのです。
ベートーヴェン協奏曲の録音当時、フルトヴェングラーはウィーンとベルリンで活動する許可は未だ下りていません。一計を案じたレッゲは、ルツェルンでメニューインとベートーヴェンを録音することを提案します。
こうした経緯で実現したのがこの録音。後にLP用に再録音されたためにカタログから消えてしまいましたが、テスタメントが着目して正規にCD化された音源ですね。
実際に聴いてみると、第2楽章こそやや荒れた音質ですが、SPとしては大変優れたもの。フィルハーモニアとの新盤と比べても遜色ないと思います。
演奏は新盤以上に音楽的な感興が高く、私はむしろこちらを優位に取りたいくらい。
カデンツァはここでもクライスラー。新盤と全く同じです。
第1楽章のスコア改変は、
55小節第3拍にコントラバスのピチカート追加。
109小節第1拍にティンパニ追加。
525・526小節と529・530小節にヴィオラの旋律線追加。
の3箇所に留まっていて、その面でも上位でしょう。新盤のオッコチと思われるようなミスはありません。
②と③は、昨日も紹介したベルリン録音のメンデルスゾーンのカップリング用に追加録音されたもの。
メニューインはいざ知らず、フルトヴェングラーとしては録音のためだけのレパートリーでしょう。極めて珍しい曲目。
しかし演奏は本格的なもので、フレーズの切れ目など完璧にまとめています。
参照楽譜
①ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.45
②③カーマス・スタディ・スコア No.1004(ベートーヴェン全集の1冊)
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