今日の1枚(102)

今日は穀雨。これから降る雨は万物を潤す恵みの雨ですから、天を恨んじゃいけませんよ。
フルトヴェングラーの録音、EMIのものは聴き終わりましたが、その他のレーベルのものが未だ若干残っています。今日はドイツ・グラモフォンに残した正規スタジオ録音の1枚を取り上げます。
「The Originals」というタイトル、イメージ・ビット・プロセシングという技術を使ってマスタリングした名盤シリーズから、447 439-2 という品番。

①シューベルト/交響曲第9番ハ長調「ザ・グレイト」
②ハイドン/交響曲第88番ト長調

演奏はいずれもウィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。データは、
①1951年11月と12月 ベルリン、イエス・キリスト教会
②1951年12月 ベルリン、イエス・キリスト教会
エクゼキュティヴ・プロデューサーは Elsa Schiller 、レコーディング・プロデューサーが Fred Hamel 、エンジニアは Heinrich Keilholz です。

何と言ってもシラー女史がプロデュースした録音であることに注目すべきでしょう。戦後のドイツ・グラモフォン復興を牽引した立役者。
本来はエミール・ザウアーに学んだピアニストですが、ブダペストでドホナーニやコダーイにも就いた方。ベルリンRIAS放送の音楽部長を勤めていた時にDGにスカウトされたのですね。
女史はフェレンツ・フリッチャイを起用して成功。更に、ベルリン・フィルの音楽監督就任直後のカラヤンにアメリカ楽旅の費用を立て替えたことを切っ掛けに、カラヤンとの契約を取り付けた功績者です。
1960年代初めまでのDG録音は、ほとんどシラー女史が計画・立案したものでしょう。

エンジニアのカイルホルツも忘れてはならない名前です。ベルリンフィルの録音会場としてダーレム地区のイエス・キリスト教会を探し出したのがこの人。
いわゆる「DGサウンド」はカイルホルツが創り出したもので、このフルトヴェングラー録音でも教会の残響を多めに取り入れ、オーケストラの響きが渾然一体となって捉えられています。名録音。
①と②は細かい日付がクレジットされていませんが、ほとんど同じセッションで録音されているのでしょう。良く似た音質で収録されています。

①はザ・グレイトの定番として長く君臨していたディスク。私もこの曲はフルトヴェングラーを聴いて育った口です。
テンポの揺れが自然で、わざとらしさ皆無。現在では古い演奏スタイルと貶す人もいるでしょうが、これこそ古典と称してよいと思います。
第1楽章の繰り返しは省略。本来のコーダに入る前からテンポをアップするところが如何にもフルトヴェングラー。
第3楽章の繰り返しは、スケルツォ・トリオ共に前半のみ実行し、後半は省略。
第4楽章の繰り返しは省略。第4楽章再現部で734、736小節及び745~750小節までにティンパニ加筆。これは提示部と整合を取ったためでしょう。
ザ・グレイトの繰り返しを全て実行する演奏が流行しているようですが、そもそも長大な作品ですし、今更繰り返しが必要なほど知られていない作品でもありません。フルトヴェングラーの処理は現実的かつ理想的だと思います。

②はフルトヴェングラーには珍しいハイドン。88番は何故か往年の巨匠たちに好まれた作品で、フルトヴェングラーの他、トスカニーニ、ワルター、クレンペラーにも正規録音が残されています。聴き比べも面白いもの。
当盤のブックレットは Karl Schumann が執筆していますが、その中にレオポルト・ノヴァークの評が引用されています。ノヴァークはそのハイドン伝の中でフルトヴェングラーの88番を、あたかもブルックナーの緩徐楽章を聴くが如しと称えているそうです。
ハイドンとブルックナーを結び付けるとは・・・。様々な聴き方があるものだと妙な感心。
(ノヴァークにハイドンに関する著作があることは初めて知りました)
この曲の繰り返しは1・3・4楽章全て実行しています。

参照楽譜
①オイレンブルク No.410
②オイレンブルク No.487

 

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