アンサンブル金沢・第261回定期演奏会

前の日記に続いて、翌5月23日(土)に聴いたコンサートの感想です。オーケストラ・アンサンブル金沢の東京公演ではなく、現地金沢に遠征し、石川県立音楽堂コンサートホールで聴いたもの。
金沢行は別に纏めるとして、ここは演奏会だけに絞った日記です。曲目等は、
メンデルスゾーン/交響曲第1番ハ短調作品11
ハイドン/チェロ協奏曲第1番ハ長調 Hob.Ⅶb-1
     ~休憩~
ハイドン/交響曲第60番ハ長調 Hob.Ⅰ-60 「うつけ者」
 指揮/広上淳一
 チェロ/ジョルジ・カラゼ
 コンサートマスター/シュテファン・スキバ
態々金沢まで出掛けたのは、もちろん広上の指揮と実に凝ったプログラムを味わうのが目的。今年(2009年)200年目を迎える1809年にメンデルスゾーンは生まれ、ハイドンは没したのです。ま、メンデルスゾーンはハイドンの生まれ替わりかも。
しかも取り上げるのは全て「ハ」が基調。二つのシンフォニーは普段取り上げられる機会の少ない作品。
私はこのコンサートホールも初めてなら、アンサンブル金沢も全く初体験。その点では比較のしようもありませんので、本会だけの単純な感想です。
結果を一言で表現すれば、副題に“グルジアの天才を金沢に聴く” とでもしようかしら、というもの。
コンサートそのものは15時開演。45分前に開場され、オーケストラ側とマエストロによるプレトークがあります。これが当団の慣習なのか否かは不明。
プレトークによると、広上の定期登場は今回が3回目(最初はシューベルト2番他、2回目はオール・モーツァルト)の由。前回は永久名誉音楽監督・岩城宏之氏が亡くなられた直後、“アンサンブル金沢とは不思議な縁を感ずる”とのことでした。
現音楽監督・井上道義は、広上が首席を務める京都市響の元首席指揮者。広上の方針で、井上マエストロは年に1回は京都の指揮台にも立つことが決まっています。
小京都とも言われる金沢、今後は両オケのコラボレーションに繋がる可能性もありそう。この日の見事な演奏と成功は、それを予感させるもの充分、という感じでした。
客席は満席ではないものの、かなり入っています。いつもと比べてどうなのかは知りません。前日の東京と比べると、マスクは探さないと見つからない程度。石川県ではインフルエンザ感染者が出ていない結果なのでしょうか。
オーケストラのメンバーが登場するのに合わせ、客席から拍手が起きます。全員が定位置に付いたところで、メンバーが客席に一礼。東京ではほとんど見られない、地方オーケストラならではの光景です。
(東京の聴衆は海外からの来日オケに対してだけ拍手でメンバー登場を迎えます。妙な習慣ですね)
冒頭のメンデルスゾーン。実は去年、広上/大阪シンフォニカーによる演奏を現地で聴いた作品ですが、大阪ではメインだったのに対し、金沢は冒頭。
その所為もあるのかオーケストラのサイズの違いか、大阪がシンフォニックな演奏だったのに比較すると、より室内楽的なアプローチ。私としては二度目のナマ体験ですが、真に立派な交響曲。もっと頻繁に取り上げられて良い作品でしょう。
続いてハイドンの協奏曲。比較的近年になって発見された方の作品で、作曲順に1番が付けられているもの。
これは凄い名演に出遭いました。ソロのカラゼ、広上の倍はあろうかという背の高い若手で、1984年グルジアのティフリス生まれ。今回が公式の日本初登場と聞きました。つまり、東京では未だ知られていない人。
コンクール暦もあるようですが、何よりギドン・クレーメルが一押しにしている新人の由。プレトークで広上も、“今日のソリストは凄いですよ。隣で指揮していて久し振りに惹き付けられました” と、タネ明かししたほど。
なるほど、これは凄い。特にピアニシモの美しく、かつ芳醇に響く音楽。完全に音楽になり切っている充実感。
広上/アンサンブル金沢も、ほぼ完璧と思われる絶妙なバック。コンチェルトを聴く楽しみとスリルがギュッと凝縮された30分でした。
アンコールにバッハ。無伴奏の3番から最後のジーグが演奏されましたが、これがまた素晴らしい。
いつもは大人しい(だろう、と想像されますが)金沢の客席も、カラゼという若者に完全に魅了された様子。
チョッと大袈裟かも知れませんが、単にチェリストという範囲を超え、「音楽家」という視点で見渡しても、何十年に一人という天才じゃないでしょうか、この人は。
因みに、使用した楽器はクロンベルク・アカデミーの管理するギドン・クレーメル楽器基金から貸与されている Mantegazza Brothers の1765年製。
後半はハイドンのお茶目なシンフォニー。広上マエストロ大得意の一品で、私も彼で聴くのは3度目(神奈川フィル、紀尾井シンフォニエッタに次いで)。
プレトークで明かしてくれた話では、広上の指揮科の学生からこの曲の存在を知ったとのこと。授業で取り上げる内、実際のコンサートでも指揮したいと思うようになったのだとか。
毎回演出が違うのも楽しみで、今回はコンサートマスターが指揮者に猛烈に抗議するという設定。何とか宥めたマエストロが、汗を拭き拭き客席に向かって両肩を挙げてみせる所で爆笑。
アンサンブル金沢の定期ではアンコールが演奏されるのが通例なのか、広上が客席に向かって短いスピーチのあと、弦楽四重奏曲「皇帝」の第2楽章を弦楽アンサンブルで。
これがまた素敵な演奏で、一音一音全てに息が通った、心底から謳い上げる見事なハイドン。こんな演奏、こういう「手」もあったんだと、改めて広上淳一に拍手喝采。
コンサート終了後、ホワイエで広上/カラゼ二人によるサイン会に長い列が出来ていたことを確認してホールを後にしました。
何度でも来たい金沢です。

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