フェスタ初日

晴海の第一生命ホールで行われてきたSQW(クァルテット・ウェンズデイ)、8年目の今シーズン、大改革が計られました。何故かは想像に留めるとして、定食コースの「ガレリア」と、お祭り屋台の「フェスタ」の二本立てで構成されるのだそうです。週末の公演が原則、String Quartets on Weekends ということ。
そのフェスタが昨日開幕しました、別にファンファーレなどは鳴りませんでしたがね。2週間集中で6公演。
このホールは弦楽四重奏のミュージアムと自称しているようで、今回のフェスタで「キュレーター」(監修学芸員)を務めるのがボロメーオ・ストリング・クァルテットです。因みに来シーズンのキュレーターはカルミナ・クァルテットだそうな。
フェストですから、当然ながらコンセプトが存在します。それはボロメーオQが企画するもので、3回以上のチケットを纏めて購入した聴衆に配布される公式ガイドブックに詳しく書かれていますから、それは省略。ただ、各回毎に付せられたキャッチフレーズだけを紹介しておくと、
第1日 5月30日 “ウィーン、1800年の胎動”
第2日 5月31日 “死をめぐる断章”
第3日 6月1日  “ときめきと憧憬”
第4日 6月5日  “自死者は詠う”
第5日 6月6日  “対位法、制御不能!”
第6日 6月8日  “昼下がりの19世紀”
ということで、第4日と第5日はコンサートの他に、プラス、ということで付録企画もあるそうです。
私としては全部行きたいところですが、他のコンサートと重なっている日もあるので、1・3・5・6の4回通う予定。
その初日、曲目は、
ハイドン/弦楽四重奏曲第79番ニ長調作品76-5「ラルゴ」
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第3番ニ長調作品18-3
     ~休憩~
モーツァルト/弦楽五重奏曲第4番ト短調K516
 ボロメーオ・ストリング・クァルテット
 吉田有紀子(モーツァルトでの第2ヴィオラ)
ボロメーオはSQWがスタートした初期から登場しているクァルテットで、私も数え切れないくらい聴いている優れた団体です。最近第2ヴァイオリンが替わって、現在は第1ヴァイオリンがニコラス・キッチン、第2ヴァイオリンはクリストファー・タン、ヴィオラが元淵舞(もとぶち・まい)、チェロにイーサン・キムという国際的な顔ぶれで構成されています。
ここ晴海でもコンサートの他に、セミナー、アウトリーチなど様々な音楽活動を展開し、ボロメーオを聴いたことのない奴は音楽界のモグリじゃ、と言いたい位な存在ですな。
何と言ってもリーダーのキッチンさん、往年の名手シモン・ゴールドベルクの後継者で、弾くのはゴールドベルクの愛器だったバロン・ヴィッタ、確かバロン・ゴールドベルクと改名されたのじゃなかったかな。あやふやですけど。
さて、最初のハイドンの第1声から惹き付けられます。なんと柔らかい弦の響き、しなやかな中にハイドン極上の精神とユーモア。
そして作品のニックネームにもなっているラルゴ・カンタービレ・エ・メスト!! この曲を聴いてから死ぬ人は幸いです。思わずそう口走ってしまうほどの天国的なラルゴ。その見事な演奏と祈り。
私は唯々ハイドンの最晩年の境地に遊び、慰められ、勇気付けられるのでした。
このコンサートのテーマは、ハイドン・モーツァルト・ベートーヴェンの3人が、形こそ違え、“間近にいてお互いを刺激しあっていなければ、今残されているような弦楽四重奏の伝統は存在しなかった”(キッチン)健全な交流関係を再確認するもの。
その意味で、ハイドンのほとんど最後にあたる1797年の作品、ベートーヴェンが翌1798年に書いた最初の弦楽四重奏を並べ、最後にモーツァルトが1787年に書いた、3曲の中では最も早い時期の作品で締め括る素晴らしいプログラム構成になっているのです。ただ名曲を並べているのではない。
ベートーヴェンを聴けば、何処がベートーヴェンの個性なのか、初めてこの曲を聴いた人でも即座に納得できたでしょう。
最後にエクセルシオの吉田有紀子を加えたモーツァルトの五重奏、モーツァルトの天才が改めて眼前に現出する。その手応えと驚き。
いつも以上に少ない客席の熱い拍手に応え、モーツァルトのメヌエットがアンコールされました。
コンサートの始まる前、休憩時間に多くのファンが舞台下に集まっていたのは、ニコラス・キッチンが使用していた足踏式電子譜面台。キッチンの頭の中はものすごく複雑。新しいことに次々とチャレンジしていることの象徴でしょうか。ヴィオラの元淵嬢がガイドブックの中で紹介しています。
ということで次回は“ときめきと憧憬”。う~ん、今日の“死をめぐる断章”も聴きたいんだけどなぁ~。

 

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