日本フィル・第332回名曲コンサート

昨日に引き続いてカルミナを聴きたい気持ちをグッとこらえて、今日は日本フィルを聴きにサントリーホールへ。
東京は久し振りに陽射しが戻り、空気は乾燥しつつも暑気を孕んでいます。
ラヴェル/海上の小舟
ラヴェル/道化師の朝の歌
ラヴェル/ピアノ協奏曲
~休憩~
ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲「展覧会の絵」
指揮/アレクサンドル・ラザレフ
ピアノ/小川典子
コンサートマスター/扇谷泰朋
ゲスト・チェロ・ソロ/北本秀樹
昨日の晴海ほどではないけれど、名曲尽し。全てにラヴェルが絡みつつ、メインはムソルグスキーというラザレフならでは。しかも前半2曲と後半はオリジナルがピアノ曲という隠し味もあります。
冒頭の二曲はいずれもピアノ曲集「鏡」からラヴェル自身がオーケストレーションしたもの。
ラザレフは1曲づつ別に演奏するのではなく、切れ目無く2曲を続けて指揮しました。
続くピアノ協奏曲。独奏する小川典子が目当て、という人も多かったでしょう。私もその一人ですが、久し振りというか、ほとんど初めてこの協奏曲の真価に接した思いです。
この名曲は度々取り上げられる作品ですが、フランス風の味わいを出すのが意外に難しく、滅多に名演と呼べるものには遭遇できません。私もフランス系のピアニストを含めて何人かの演奏に出会いましたが、どれも感心するものではありませんでした。ラヴェルらしいフレンチ・タッチが聴けず、いつも不満なのです。
唯一度、遥か40年以上の昔、ヴラド・ペルルミュテールの独奏のみが素晴らしい体験として記憶されています。
今日の小川は、それに比肩できる素晴らしいラヴェル。ペルルミュテールとは全く別のアプローチで、如何にもラヴェルを堪能させてくれました。
40年前の記憶と比較するのは無理がありますが、ペルルミュテールのは、例えば冬の寒い日に暖炉に燃え盛る火花に思わず手を翳したくなるような暖かいラヴェル。
対して小川は、今日のような初夏の一日、眩しく吹き上がる噴水に朝日がキラキラと煌めくようなラヴェル。ダイヤモンドの如き硬質な輝き。
蓋し名演。暫くこの曲は小川以外では聴きたくないと思います。
メインの展覧会の絵。それはもう、ラザレフが振るとこの曲はこうなる、としか言いようがありませんな。ダイナミックな指揮ぶり、それは決してこけおどしではなく、的確な指示なのだから文句の付け様が無い。
譜面をサラッと通しただけでは絶対に出て来ない説得力。
例を二つ。
「ビドロ」で終始鳴らされる低弦のズシ・ズシという歩み。確かにこれは牛車を牽く牛の重い足取りでしょう。それをラザレフのようなジェスチャーで振られると、この曲に初めて接した人でも“あぁ、そうか” と納得せざるを得ないでしょう。
「キエフの大門」。何処から聴こえて来るか判らないようなコラール(ラザレフは例によって客席を向く)が終わり、アクセントを強調した鐘が鳴り響く場面。
ここでは街中の鐘が一斉に鳴り、人々が家を飛び出してくるような光景を思い浮かべることができない人は、まず居ないでしょう。
「展覧会の絵」はそういう音楽だ、と判ってはいても、ここまで明確に指摘されれば客席は沸きに沸くしかないでしょ。
アンコールは、プログラムの主旨を通して、ラヴェルの「死せる王女のためのパヴァーヌ」管弦楽版。福川首席の見事なソロ。
ということで、素晴らしいラヴェルを堪能したマチネーでした。

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