日本フィル・第285回横浜定期演奏会
競馬カテゴリーにも書いた通り、日曜日から京都に一泊で遠征。本来なら日曜日の朝にアップすべき演奏会レポートが2日遅れになってしまいました。悪しからず。
3月23日の土曜日に行われた日本フィルの横浜定期。首都圏の桜は早や満開で、この週末は何処も大変な人出でした。一足早い“桜咲く”の便りも届きそうな予感が・・・。
チャイコフスキー/交響曲第2番
~休憩~
グリーグ/ピアノ協奏曲
ラヴェル/ボレロ
指揮/大友直人
ピアノ/萩原麻未(はぎわら・まみ)
コンサートマスター/扇谷泰朋
ソロ・チェロ/菊池知也
今回は2013年春シーズンの幕開け、プログラムの冒頭でも譬えられていたように、上品で爽やかな春風が感じられる演奏会でした。
このところ日本フィルはラザレフ、インキネンと個性豊かな指揮者が続きましたが、3月の横浜を担当する大友直人は良い意味で個性を表に出さないタイプ。正に上品さを楽しむ指揮者でもありましょう。
確か前回の横浜定期ではヴォーン=ウィリアムスの交響曲、自身の感性に適した作品を並べるプログラミングも、横浜のクラシック・ファンが安心して楽しめる要素になっているのだと思われます。
で、今回の選曲は音楽による世界巡り。ロシアの巨匠チャイコフスキーがウクライナの民謡を巧みに取り入れた佳曲、北欧の雰囲気タップリの協奏曲が続き、最後はフランスの大家がスペインに敬意を表したかの如きボレロで締め。
肩に力を入れず、異国情緒あふれるメロディーに身を委ねれば良い。そんなお花見にもピッタリの演奏。もちろんプロフェッショナルな彼らが安易に取り組むわけではありません。最後はボレロの轟音に客席も熱く盛り上がる一夜でした。
プログラム前半に交響曲が置かれるプログラミング、以前は時折聴かれましたが、最近では珍しい部類でしょう。個人的にはこの構成にも懐かしさと親しみを覚えます。
チャイコフスキーの交響曲では取り上げられる機会の少ない第2番。今回のプログラムにも長年馴染んできた「小ロシア」のタイトルが印刷されていましたが、プレトークで奥田佳道氏が指摘していたように、ロシアでウクライナを意味する「小ロシア」という呼称はやや侮蔑的なもの。
このことは以前から入手できたオイレンブルク版ポケット・スコアの解説でジェラード・エイブラハムも指摘していたように、タイトルを付けるなら「ウクライナ」とすべきなのでしょう。私も小ロシアという呼称は避けるようにして久しい所です。
またエイブラハムの解説を読むと、第2交響曲はオリジナル版を大幅に改訂したのが現行版。今回も現行版による演奏でしたが、チャイコフスキーの弟子のタネーエフによればオリジナル版の方が優れているという見解も。そろそろ原典版によるナマ演奏にも接してみたいものです。
(リムスキー=コルサコフ夫人が大感激とたのもオリジナル版でしたが、彼のラザレフも現行版を取り上げていたと記憶しますから、どちらが良いかは両版を聴いて見なければ判りませんね)
グリーグのソロを弾いた萩原は噂の若手ピアニスト、私は初めて聴きました。プロフィールによると、2010年のジュネーヴ国際コンクールのピアノ部門で日本人として初めて優勝。1位を出さないことで有名な同コンクールで8年振りの「優勝」というのですから期待するなと言うのが無理と言うもの。
受賞も数多く、私が毎月1日にアップしている日本の交響楽団定期演奏会記録集を検索してみると、去年4月大阪フィルのモーツァルト(尾高)、今年1月山響でのシューマン(沼尻)、そして今回のグリーグも先月札響(セゲルスタム)で弾いています。今後も益々登場機会が増える新星でしょう。
一度だけの印象で断定するのは危険でしょうが、天性の柔らかい音楽性が魅力。第2楽章や、第3楽章の第2主題の歌心には思わず惹き込まれるモノを感じました。
舞台上での答礼など、未だ未だ初々しさと言うか、微笑ましいほどのあどけなさ。彼女の年齢など詳しいことは知りませんが、今の時点で萩原麻未を聴いたことを自慢できる日が来ることに期待しましょう。
最後はオケの好調ぶりを如実に示したボレロ。特に今回は木管楽器のトップを全て女性陣が独占。男性のソロが登場したのは、ミュート付トランペットのクリストフォーリ君が最初でした。もちろんトロンボーンは日フィルの看板・藤原功次郎が決め、小太鼓の遠藤功と共に、二人の「巧者」が客席から大喝采を浴びてのフィナーレ。
アンコールはグリークのペール・ギュントから「アニトラの踊り」。曲名を明確に告げるのもマエストロ大友の誠実さの表れでしょう。端正で丁寧な指揮に大満足の横浜でした。
コンサートを終えて1階ロビーに降りると、開場した時には気が付かなかった「おかげさまで日本フィルは公益財団法人に認定されました」との案内板が。雨田光弘氏の描く猫たちが、満面に笑みを浮かべて祝福していました。
認定のニュースはボレロの演奏中に届いたのでしょうか、正に“桜咲く”。生きている限りは細やかながらも支援を続けていく決意を固めた次第。そもそも公益財団法人としての主旨を最も適切に活動してきたのが日本フィルじゃないでしょうか。
挨拶を交わした山岸女史の声も、気の所為かいつもより弾んでいた様子。約束通り当日記にも紹介させて頂きましたが、既に数多くのファンが認定を伝えるツィートにリツィートされています。
私のような見るだけフォロワーも大勢いるはず、一般の音楽ファンに支えられている日本フィルの将来の姿が目に浮かぶようなニュースでした。
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