アルトゥール・ロジンスキ指揮ニューヨーク・フィル(1)

ロイヤル・アスコットも終わり、今週はヨーロッパ競馬も中休み。出掛けたいコンサートも二週間ほどはありません。
退屈凌ぎというわけではありませんが、去年取り組んでいたニューヨーク・フィル・ネタを久し振りに復活させようと思い立ちました。
これまでワルター、トスカニーニ、スクロヴァチェフスキ、モントゥー、ミュンシュ、クリュイタンス、アンセルメ、パレー、カラヤン、ベーム、ライナー、セルと気の向くままに取り上げてきましたが、これで終りじゃありませんから・・・。
ただしデータ抜出が面倒くさいのと、7月に入ればまた忙しくなりますから、合間を縫ってマイペースです。途中でポシャるかもしれませんが、気長に付き合ってください。
ということで、ニューヨーク・フィルの音楽監督を務めた指揮者たちの最初として、ロジンスキを取り上げます。
例によって演奏曲目の順序はあくまでも私の想像。そのまま信用しないこと。
ロジンスキは1892年にダルマチアのスパラート(現在のスプリット)という所に生まれたポーランドの指揮者。1933年にアメリカ国籍を取得しています。
1958年にボストンで亡くなるまで、ロサンジェルス・フィル、クリーヴランド管弦楽団、ニューヨーク・フィル、シカゴ交響楽団などアメリカのメジャー・オーケストラの音楽監督を歴任しました。
何よりトスカニーニのために設立されたNBC交響楽団のメンバー選抜とトレーニングに当たったことで有名で、資料からはかなりの独裁者だったことが偲ばれます。
ロジンスキがニューヨーク・フィルの音楽監督に納まったのは1943年秋のシーズンから。1946/47シーズンの前半が最後の登場ですから、任期は4年ほどと短いものでした。
手元のニューヨーク・フィル史に登場するのは、客演指揮者の一人として振った1942年秋から。第1回はその1942年の記録を紹介しましょう。
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1942年11月18・20日 カーネギーホール
 モートン・グールド/弦楽合奏と管弦楽のためのスピリチュアル
 ベートーヴェン/交響曲第2番
 ショスタコーヴィチ/交響曲第5番
  指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1942年11月19日 キャンプ・ジョイス・キルマー
 モートン・グールド/弦楽合奏と管弦楽のためのスピリチュアル
 ベートーヴェン/交響曲第5番
 ロッシーニ/歌劇「ウィリアム・テル」序曲
 スーザ/行進曲「星条旗よ永遠なれ」
  指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1942年11月22日 カーネギーホール
 ベートーヴェン/交響曲第2番
 ショスタコーヴィチ/交響曲第5番
  指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1942年11月26・27日 カーネギーホール
 ウェーバー/歌劇「オイリアンテ」序曲
 ショスタコーヴィチ/交響曲第1番
 ブラームス=シェーンベルク/ピアノ四重奏曲ト短調作品25
  指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1942年11月29日 カーネギーホール
 モートン・グールド/弦楽合奏と管弦楽のためのスピリチュアル
 ショスタコーヴィチ/交響曲第1番
 ウェーバー/歌劇「オイリアンテ」序曲
 ワーグナー/歌劇「タンホイザー」序曲
  指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1942年12月3・4・5日 カーネギーホール
 ヘンデル=ビーチャム/歌劇「忠実な羊飼い」組曲
 ショスタコーヴィチ/交響曲第7番
  指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1942年12月6日 カーネギーホール
 ベートーヴェン/交響曲第5番
 ドヴォルザーク/交響曲第9番~第2楽章
 ウェーバー/歌劇「オベロン」序曲
 マクドナルド/交響詩「バターン」
 スーザ/行進曲「星条旗よ永遠なれ」
  指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1942年12月7日 プレイリー・ステイト
 モートン・グールド/弦楽合奏と管弦楽のためのスピリチュアル
 ベートーヴェン/交響曲第5番
 ロッシーニ/歌劇「ウィリアム・テル」序曲
 スーザ/行進曲「星条旗よ永遠なれ」
  指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1942年12月10・11日 カーネギーホール
 ベルリオーズ/劇的物語「ファウストの劫罰」
  指揮/アルトゥール・ロジンスキ
  ソプラノ/ヤルミラ・ノヴォトナ
  テノール/フレデリック・ヤーゲル
  バス/エツィオ・ピンツァ
  バリトン/エイブラシャ・ロボフスキー
  合唱/ウェストミンスター合唱団
1942年12月12・13日 カーネギーホール
 ブラームス/ヴァイオリン協奏曲
 ブラームス/交響曲第1番
  指揮/アルトゥール・ロジンスキ
  ヴァイオリン/ミシェル・ピアストロ
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ロジンスキのニューヨーク・フィル登場はもちろんこれが初めてではないでしょうが、1942年秋の登場でショスタコーヴィチの交響曲を3曲も取り上げているのが如何にもロジンスキらしいところ。駄洒落で「露人好き」と言いたくなってしまいます。
モートン・グールド Morton Gould (1913-1996) はニューヨーク州リッチモンド生まれのアメリカの作曲家。指揮者、ピアニストとしても活躍していました。オーケストレーションの名人で、放送分野でも活動した人です。
作品には“Spiritual”という言葉が付いた作品が多くありますが、ロジンスキが取り上げたのは恐らく5楽章からなくフル編成の管弦楽作品だと思います。
三省堂辞典には弦楽合奏作品として同名のタイトル曲が載っていますが、手元の資料では“Spirituals for String Choir and Orchestra”と表記されていますのでね。
グールドには他に Symphony of Spirituals という別の作品もあって、同定には注意が必要でしょう。
11月19日と12月7日の演奏会場については不明です。曲目の感じと時期から想像して、軍関係の慰問コンサートだったかも知れません。
昔、確か「オーケストラの少女」という映画でロジンスキがベートーヴェンの第5(フィナーレ)を指揮する場面を見たような記憶がありますが、オリジナルはこうした演奏会の映像だった可能性もあります。
12月6日に演奏されているマクドナルド McDonald という作曲家については全く判りません。グローブ辞典でも探せば見つかるかも知れませんが・・・。
作品のタイトル「バターン」 Bataan はフィリピンのルソン島にある半島の名前で、第二次世界大戦の激戦地でしたから、あるいは日本軍との戦争意識を高揚させるために作られた作品なのかも知れません。
(私の想像ですから、あくまでも参考ということでお願いします)
ベルリオーズの「ファウストの劫罰」に出演した歌手について、資料では音域に言及がありません。ノヴォトナとピンツァは有名な歌手ですから、夫々マルガリートとメフィストフェレス役だったと思います。
またヤーゲルはテノールであることが何とか判りましたので、これがファウスト役でしょう。
残る一人、ロボフスキー Abrasha Robofsky については調査不能。恐らくブランデルを歌ったバリトン歌手だろうとの想像です。
ブラームスの協奏曲でソロを弾いているピアストロは、当時のニューヨーク・フィルのコンサートマスターです。
ロジンスキとは仲が良かったそうですが、ロジンスキは音楽監督に就任した直後、ピアストロを含む14人を解雇しました。相当なスキャンダルになりましたから、噂で知っている方もおられるでしょう。
解雇の理由については闇の中のようですが、この事件の後でもロジンスキとピアストロの仲は良好だったそうですね。
ロジンスキがこの人事に拠って前任のクリーヴランド管から引き抜いたのは、チェロのレナード・ローズ、ヴィオラのウイリアム・ランサーなど。現代では信じられないような荒業をやってのけたものです。

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