アルトゥール・ロジンスキ指揮ニューヨーク・フィル(11)
ロジンスキはニューヨーク・フィルの音楽監督を3シーズン務めましたが、次のシーズン(1946-1947年)も指揮台に立っています。今日はその記録。
これはあくまでも演奏会のプログラムを紹介する記事。裏話やゴシップが話題ではありませんが、どうしてもこれだけは触れないわけには行きません。
実はロジンスキ、1946-1947年シーズンも音楽監督としてスタートを切りました。しかしシーズン途中、突然のように解任されてしまいました。
公式な理由は明らかにされていないようですが、1947年2月3日以降のプログラムには「音楽監督ロジンスキ」の名前が全て削除されています。
ニューヨーク・フィルのマネージャーから発表されたところでは、“オーケストラはマネージャー、ボード、音楽監督の3本柱によって運営される。しかしニューヨーク・フィルではボードと音楽監督はマネージャーを中心とする衛星として機能しなければならない”。
ロジンスキ解任はオケにとっても、聴衆にとっても、ボードの大多数にとっても寝耳に水のことだったようで、かなりのスキャンダルになりました。マスコミはロジンスキの側に立ったようですが、最終的にはマネージャーと「カネ」には逆らえなかったようです。
ここからは私の想像ですが、大胆なプログラムを企画し、客演指揮者やソリスト、その演目までコントロールした音楽監督。常にプレイヤーの側に立ってきたロジンスキ監督に対して、マネージャーが不快感を抱いていたのではないでしょうか。
このシーズン、ロジンスキでスタートしたプログラムは、2月以降はワルターとストコフスキーの手に委ねられ、次のシーズンにはブルーノ・ワルターが「ミュージカル・アドヴァイザー」という肩書きでリードしていきます。
どうもワルターには以前から話が通っていたようです。私もワルターは決して嫌いな指揮者ではありませんが、これはあまり読みたくない一条ですね。
音楽監督の立場はどうあるべきか。つい先日のアメリカでも某オケで似たようなケースがありました。日本とは様々な点で環境が異なる世界ではあります。
前置きが長くなりましたが、今回と次回の2回に亘ってロジンスキ/ニューヨーク・フィルの最後のプログラムを展望していきましょう。
**********
1946年10月3・4・6日 カーネギーホール
バッハ=ブルームフィールド/トッカータ、フーガと間奏曲ハ長調(6日はフーガのみ)
ブラームス/交響曲第2番
ウィリアム・シューマン/アンダートウ
レスピーギ/ローマの松
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1946年10月5日 ノーウォーク・ハイ・スクール
バッハ=ブルームフィールド/トッカータ、フーガと間奏曲ハ長調~フーガ
ブラームス/交響曲第2番
ウイリアム・シューマン/アンダートウ
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」~第3幕前奏曲、徒弟たちの踊り、名歌手入場
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1946年10月10・11日 カーネギーホール
ベートーヴェン/交響曲第1番
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番
ローゼンタール/管弦楽組曲「食卓の音楽」(アメリカ初演)
R.シュトラウス/歌劇「バラの騎士」ワルツ集
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ピアノ/マリーラ・ヨーナス
1946年10月12日 ニュージャージー、マッカーター劇場
バッハ=ブルームフィールド/トッカータ、フーガと間奏曲ハ長調~フーガ
ブラームス/交響曲第2番
ウイリアム・シューマン/アンダートウ
R.シュトラウス/歌劇「バラの騎士」ワルツ集
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」~徒弟たちの踊り、名歌手入場
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1946年10月13日 カーネギーホール
ウェーバー/歌劇「オイリアンテ」序曲
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番
ローゼンタール/管弦楽組曲「食卓の音楽」
R.シュトラウス/歌劇「バラの騎士」ワルツ集
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ピアノ/マリーラ・ヨーナス
1946年10月17・18日 カーネギーホール
ダイアモンド/弦楽合奏のための「循環」
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲
プロコフィエフ/交響曲第5番
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ヴァイオリン/ユーディ・メニューイン
1946年10月19日 カーネギーホール
ダイアモンド/弦楽合奏のための「循環」
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番
プロコフィエフ/交響曲第5番
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ピアノ/ユージン・イストミン
1946年10月20日 カーネギーホール
ベートーヴェン/「プロメテウスの創造物」序曲
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲
ディーリアス/歌劇「村のロメオとジュリエット」~間奏曲「楽園への道」
ダイアモンド/弦楽合奏のための「循環」
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」~第3幕前奏曲、徒弟たちの踊り、名歌手入場
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ヴァイオリン/ユーディ・メニューイン
1946年10月24・25日 カーネギーホール
ベートーヴェン/「プロメテウスの創造物」序曲
モーツァルト/ピアノ協奏曲ハ長調K415
シベリウス/交響曲第5番
イベール/寄港地
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ピアノ/ワンダ・ランドフスカ
1946年10月26日 カーネギーホール
ベートーヴェン/「プロメテウスの創造物」序曲
ウィエニアフスキ/ヴァイオリン協奏曲第2番
シベリウス/交響曲第5番
イベール/寄港地
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ヴァイオリン/ヘンリク・シェリング
1946年10月27日 カーネギーホール
バッハ=レスピーギ/コラール・プレリュード「目覚めよ、と呼ぶ声あり」
モーツァルト/ピアノ協奏曲ハ長調K415
シベリウス/交響曲第5番
イベール/寄港地
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ピアノ/ワンダ・ランドフスカ
**********
10月最初の定期、ウイリアム・シューマン William Schuman (1910-1992) については説明の要も無いでしょう。生粋のニューヨーカーですが、ユダヤ系。ザルツブルクのモーツァルテウムとジュリアードで学んだアメリカを代表する作曲家です。ピューリッツァー音楽賞を受賞した最初の作曲家ですね。
アンダートウは「引き波」の意味で、バレエ作品から演奏会用に抜き出したもの。シャーマー社からスコア入手可能です。
10月10日のローゼンタール Manuel Rosenthal (1904-2003) は指揮者としても有名な、あのローゼンタールです。99歳まで現役で棒を振っていたことでも話題になっています。アメリカではシアトル響の指揮者も務めていました(ここでリング全曲もやってます!!)。
作曲家というより編曲としてオッフェンバックの「パリの喜び」がヒット。交響曲も一つですが残しています。
10月17日のダイアモンド David Diamond (1915-2005) も最近亡くなったロチェスター生まれのアメリカの作曲家。この人もユダヤ系です。ラヴェルやストラヴィンスキーが絶賛したほどの人で、一時期はセリーの手法も使っていました。
交響曲は全部で11曲。ロジンスキが取り上げた弦楽オーケストラの作品は Rounds for String Orchestra というタイトルで、ここでは「循環」と訳しておきました。3楽章から成る13分ほどの作品。エルカン・フォーゲルから出版されていますから、日本のオーケストラでも取り上げてみては如何?
これはあくまでも演奏会のプログラムを紹介する記事。裏話やゴシップが話題ではありませんが、どうしてもこれだけは触れないわけには行きません。
実はロジンスキ、1946-1947年シーズンも音楽監督としてスタートを切りました。しかしシーズン途中、突然のように解任されてしまいました。
公式な理由は明らかにされていないようですが、1947年2月3日以降のプログラムには「音楽監督ロジンスキ」の名前が全て削除されています。
ニューヨーク・フィルのマネージャーから発表されたところでは、“オーケストラはマネージャー、ボード、音楽監督の3本柱によって運営される。しかしニューヨーク・フィルではボードと音楽監督はマネージャーを中心とする衛星として機能しなければならない”。
ロジンスキ解任はオケにとっても、聴衆にとっても、ボードの大多数にとっても寝耳に水のことだったようで、かなりのスキャンダルになりました。マスコミはロジンスキの側に立ったようですが、最終的にはマネージャーと「カネ」には逆らえなかったようです。
ここからは私の想像ですが、大胆なプログラムを企画し、客演指揮者やソリスト、その演目までコントロールした音楽監督。常にプレイヤーの側に立ってきたロジンスキ監督に対して、マネージャーが不快感を抱いていたのではないでしょうか。
このシーズン、ロジンスキでスタートしたプログラムは、2月以降はワルターとストコフスキーの手に委ねられ、次のシーズンにはブルーノ・ワルターが「ミュージカル・アドヴァイザー」という肩書きでリードしていきます。
どうもワルターには以前から話が通っていたようです。私もワルターは決して嫌いな指揮者ではありませんが、これはあまり読みたくない一条ですね。
音楽監督の立場はどうあるべきか。つい先日のアメリカでも某オケで似たようなケースがありました。日本とは様々な点で環境が異なる世界ではあります。
前置きが長くなりましたが、今回と次回の2回に亘ってロジンスキ/ニューヨーク・フィルの最後のプログラムを展望していきましょう。
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1946年10月3・4・6日 カーネギーホール
バッハ=ブルームフィールド/トッカータ、フーガと間奏曲ハ長調(6日はフーガのみ)
ブラームス/交響曲第2番
ウィリアム・シューマン/アンダートウ
レスピーギ/ローマの松
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1946年10月5日 ノーウォーク・ハイ・スクール
バッハ=ブルームフィールド/トッカータ、フーガと間奏曲ハ長調~フーガ
ブラームス/交響曲第2番
ウイリアム・シューマン/アンダートウ
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」~第3幕前奏曲、徒弟たちの踊り、名歌手入場
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1946年10月10・11日 カーネギーホール
ベートーヴェン/交響曲第1番
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番
ローゼンタール/管弦楽組曲「食卓の音楽」(アメリカ初演)
R.シュトラウス/歌劇「バラの騎士」ワルツ集
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ピアノ/マリーラ・ヨーナス
1946年10月12日 ニュージャージー、マッカーター劇場
バッハ=ブルームフィールド/トッカータ、フーガと間奏曲ハ長調~フーガ
ブラームス/交響曲第2番
ウイリアム・シューマン/アンダートウ
R.シュトラウス/歌劇「バラの騎士」ワルツ集
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」~徒弟たちの踊り、名歌手入場
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
1946年10月13日 カーネギーホール
ウェーバー/歌劇「オイリアンテ」序曲
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番
ローゼンタール/管弦楽組曲「食卓の音楽」
R.シュトラウス/歌劇「バラの騎士」ワルツ集
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ピアノ/マリーラ・ヨーナス
1946年10月17・18日 カーネギーホール
ダイアモンド/弦楽合奏のための「循環」
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲
プロコフィエフ/交響曲第5番
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ヴァイオリン/ユーディ・メニューイン
1946年10月19日 カーネギーホール
ダイアモンド/弦楽合奏のための「循環」
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第5番
プロコフィエフ/交響曲第5番
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ピアノ/ユージン・イストミン
1946年10月20日 カーネギーホール
ベートーヴェン/「プロメテウスの創造物」序曲
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲
ディーリアス/歌劇「村のロメオとジュリエット」~間奏曲「楽園への道」
ダイアモンド/弦楽合奏のための「循環」
ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」~第3幕前奏曲、徒弟たちの踊り、名歌手入場
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ヴァイオリン/ユーディ・メニューイン
1946年10月24・25日 カーネギーホール
ベートーヴェン/「プロメテウスの創造物」序曲
モーツァルト/ピアノ協奏曲ハ長調K415
シベリウス/交響曲第5番
イベール/寄港地
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ピアノ/ワンダ・ランドフスカ
1946年10月26日 カーネギーホール
ベートーヴェン/「プロメテウスの創造物」序曲
ウィエニアフスキ/ヴァイオリン協奏曲第2番
シベリウス/交響曲第5番
イベール/寄港地
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ヴァイオリン/ヘンリク・シェリング
1946年10月27日 カーネギーホール
バッハ=レスピーギ/コラール・プレリュード「目覚めよ、と呼ぶ声あり」
モーツァルト/ピアノ協奏曲ハ長調K415
シベリウス/交響曲第5番
イベール/寄港地
指揮/アルトゥール・ロジンスキ
ピアノ/ワンダ・ランドフスカ
**********
10月最初の定期、ウイリアム・シューマン William Schuman (1910-1992) については説明の要も無いでしょう。生粋のニューヨーカーですが、ユダヤ系。ザルツブルクのモーツァルテウムとジュリアードで学んだアメリカを代表する作曲家です。ピューリッツァー音楽賞を受賞した最初の作曲家ですね。
アンダートウは「引き波」の意味で、バレエ作品から演奏会用に抜き出したもの。シャーマー社からスコア入手可能です。
10月10日のローゼンタール Manuel Rosenthal (1904-2003) は指揮者としても有名な、あのローゼンタールです。99歳まで現役で棒を振っていたことでも話題になっています。アメリカではシアトル響の指揮者も務めていました(ここでリング全曲もやってます!!)。
作曲家というより編曲としてオッフェンバックの「パリの喜び」がヒット。交響曲も一つですが残しています。
10月17日のダイアモンド David Diamond (1915-2005) も最近亡くなったロチェスター生まれのアメリカの作曲家。この人もユダヤ系です。ラヴェルやストラヴィンスキーが絶賛したほどの人で、一時期はセリーの手法も使っていました。
交響曲は全部で11曲。ロジンスキが取り上げた弦楽オーケストラの作品は Rounds for String Orchestra というタイトルで、ここでは「循環」と訳しておきました。3楽章から成る13分ほどの作品。エルカン・フォーゲルから出版されていますから、日本のオーケストラでも取り上げてみては如何?
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