佐渡裕プロデュース「カルメン」

昨日は上野の東京文化会館でオペラ鑑賞です。「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ2009」というタイトルの付いた公演、演目はビゼーの「カルメン」。主なキャストは以下の通り。
ビゼー/歌劇「カルメン」
 カルメン/ステラ・グリゴリアン
 ドン・ホセ/ルカ・ロンバルド
 エスカミーリョ/ジャン=フランソワ・ラポワント
 ミカエラ/木下美穂子
 フラスキータ/菊地美奈
 メルセデス/ソフィー・ポンジクリス
 モラレス/与那城敬
 スニガ/斉木健詞
 レメンダード/小原啓桜
 ダンカイロ/加賀清孝
  指揮/佐渡裕
  演出/ジャン=ルイ・マルティノーティ
  装置/ハンス・シャヴェルノホ
  衣裳/シルヴィ・ド・セゴンザック
  照明/ファブリス・ケブール
  管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団
そのほか関係者は大勢いて、とても全部書けません。書き漏らした皆さん、ごめんなさい。合唱は二期会とひょうごプロデュースオペラ合唱団の混成チームのようです。
子供達の合唱が大活躍。こちらはNHK東京児童合唱団という団体で、プログラムには個々人の名前が挙がっていました。
裏方では原語と声楽のコーチを務めたドゥニーズ・マッセという方の功績が大きかったと思います。
いずれにしても極めてレヴェルの高い公演、この試みは大成功でしょう。これは未だ初日ですが、東京はまだ3日間の公演を残していますし、東京の後は名古屋でも上演される予定。チケットが残っていればですが、是非ご覧になることをお薦めします。
この公演は兵庫県立芸術文化センター、愛知県文化振興事業団、東京二期会に日本オペラ連盟という四つの団体が主催・制作した舞台作品で、平成21年度文化庁舞台芸術新興の先導モデル推進事業として行われているものです。
私の認識が間違っていなければ、オペラの制作にはお金が掛かるので、四つの団体が相応に負担し、主要三団体の本拠地である兵庫・東京・名古屋で公演を打つ、というものでしょう。
文化庁が絡んでいて、新国立劇場との兼ね合いがどうなのかは判りませんが、将来を見据えたオペラ公演の実験スタイルだと思われます。
オペラを歴史的に見れば、欧米では先ず貴族が支えて発展してきたもの。しかし階級社会が急速に衰えるに伴い、支持団体は国家に頼らざるを得なくなります。もちろん一部では民間だけで継続してきたケースもありますが、今後は国家が支えることは不可能になるでしょう。
日本は最初から貴族や国が支えるという概念はありませんでしたから、世界的に見れば、反って日本方式が今後の世界の主流になっていくような気がします。
とは言いつつもオペラはカネがかかるし、収益を期待する世界じゃありません。その意味でも、こうした試みはどんどん試行されるべきだし、オペラ・ファンは積極的に応援すべきでしょうね。
最近はびわ湖と神奈川のコラボレーションもありますし、二期会も海外のオペラ・ハウスとの共同制作の道を模索しています。
全面的に国家がカネを出していたヨーロッパのオペラは急速に廃れていくと思われますから、近い将来には「カルメン」も日本でしか見られなくなるかもしれませんね。
ということで期待と不安の交錯した「カルメン」初日。この名作をエンターテインメントとして紹介するには十分な内容だったと思います。
歌手は二組あるキャストのうち、主役四人を海外組で固めた日の東京初日を聴きました。ミカエラを歌う木下はもちろん日本人ですが、彼女は最早国際的な大歌手ですから、ここでは海外組扱いなのです。
演出も変に現代的解釈を持ち込まないオーソドックスなもの。むしろリアリティーに拘った演出で、装置や照明を含め、十分に説得力がありました。
それでいて、オヤッと思うような斬新な解釈も鏤められています。何処かは明かしませんが、よ~く舞台に目を凝らして見てください。
舞台スペースの使い方が実に巧妙で、時に狭い空間を意識させ、それが瞬時に舞台一杯を広く使って開放感を出す。舞台を知り尽くした演出家の手腕に感服せざるを得ません。
特に第3幕は秀逸。紗幕と照明を巧みに使って、錯綜する場面を飽きさせることなく展開したのは見事。
前の2幕では多少間延びのする感もあった歌手たちも、第3幕以降はそれぞれの持ち味を出し切っていました。
(今回の演出では、第1幕と第2幕を続けて上演してから休憩。第3幕と第4幕は続けて上演します。プログラムにも演出家自身が書いているように、時間的経過に合わせた配慮になっているのです)
佐渡は元々深味のある音楽を創る指揮者ではありませんから、今回のようにエンターテインメントに徹した舞台作りにはピッタリと符合していました。
「喜劇」という意味ではなくオペラ・コミークですから、下世話な人情モノというスタイルの「カルメン」。正解でしょう。
この試み、今後も継続して日本流オペラ上演スタイルとして定着させて行って欲しいと思います。
但し、作品と出演者に適材適所を過たないこと。
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