読売日響・第164回芸劇名曲

この前の日曜日から腰痛を再発してしまい、このコンサートはほぼ諦めていました。それでもいくらか快方に向かっていたようなので、無理して池袋にある東京都の施設に遠征。スクロヴァチェフスキの魔力には抗い難いものがありましてね・・・。

バルトーク/管弦楽のための協奏曲
     ~休憩~
ラヴェル/スペイン狂詩曲
ラヴェル/ボレロ
 指揮/スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ
 コンサートマスター/デヴィッド・ノーラン
 フォアシュピーラー/鈴木恵理子

この会は一回券で聴きました。オーケストラの動きを鳥瞰したいので3階席を選びます。というのは負け惜しみで、単にお金が無いから。
池袋の東京芸術劇場、私の体験では中途半端な2階席より、音が上に昇ってくる3階の方が聴き易いように思います。横浜みなとみらいとは違って天井が高いのが利点でしょう。
それに優れた指揮者であれば、あまり良い席でなくともオーケストラのバランスが整って聴こえてくるものです。その点ではこの日は太鼓判。

プログラムはやや短めに設定。読響の芸劇名曲はこうした傾向の編成が多いように思います。

前半のバルトーク、このコンビで聴くのは二度目のこと。前回は確かプロコフィエフとの組み合わせだったはずです。
何でも暗譜して指揮するミスターS、珍しく譜面台にスコアを置いて振っていました。前回はどうだったかな?

登場したスクロヴァ翁、流石に歳を取ったな、という印象でしたが、指揮台に上れば相変わらず。その怜悧な音楽で痛快なバルトークを聴かせてくれました。
スクロヴァチェフスキの音楽は決して深刻なものではなく、スコアの隅々にまで光を当て、作品の構成を的確に浮き立たせていくスタイル。
この管弦楽のショーピースも単なる技巧の展覧会にはしないところが聴き所でしょう。特に続けて演奏した第3楽章から第5楽章にかけては、“あれ、こんなパッセージがあったか知ら” という面白さに満ちていました。

特に第5楽章のコーダ、練習番号482からの神秘的なパッセージは見事でした。ここはスクロヴァチェフスキの先生格に当るジョージ・セルがカットしてしまった箇所ですが、スクロヴァ翁は完璧に存在感のある、あたかもオーケストラ全体に霧が架かったような雰囲気を現出します。
第3楽章、いわゆる「夜の音楽」の微妙な響も強く印象に残りました。

後半はラヴェル2曲。
スクロヴァチェフスキはフランスで勉強した経験があり、ラヴェルを得意にしています。ミネソタでも全集盤を録音しているほどですが、読響と演奏するのは確かこれが初めてでしょう。

最初のスペイン狂詩曲もスコアを置いての指揮。
初めて接したスクロヴァさんのラヴェルは、あくまでも冷静。決して熱くならないラヴェル、というのが私の感想です。
スペイン狂詩曲では、特に冒頭部分の微妙な質感、バルトークでも感じた「夜の神秘」に一層耳を研ぎ澄ませている自分に気付くのでした。

最後のボレロは流石に暗譜。尤も譜面台を片付ける時間が無いので、スコアを置かずに演奏していましたが。
注目の小太鼓の位置は、木管の手前。第2小太鼓は通常の打楽器の位置で、加わるのはラヴェルが指定した通り、練習番号16から。最後のリフレインの手前からでした。

どうしても「熱く」なり勝ちなボレロですが、スクロヴァチェフスキは絶対のイン・テンポに徹します。かつてトスカニーニが演じてラヴェルが激怒した愚は犯しません。
私が特に面白く聴いたのは、フレーズとフレーズを繋ぐニ小節のリズム。「タンタタタ・タンタタタ・タンタン、タンタタタ・タンタタタ・タタタタタタ」 という部分ですね。
単なる同じことの繰り返しのようですが、スクロヴァ翁は微妙に響きに変化を付けます。それはもちろんラヴェルがオーケストレーションしたことなのですが、彼の棒にかかると、ラヴェルの魔法が見事に蘇ってくるのでした。

ところでこのコンサートには珍しくNHKのテレビカメラが入っていました。NHKがこのコンビを収録するのは二度目のこと。いずれBSなどで放映されるでしょう。
本家の日本テレビの放送は、番組が細切れで音質もイマイチ。NHKで放送されれば、この演奏会は永久保存版の価値があるでしょうね。

芸術劇場の3階は降りるのが大変です。階段をやっと降りても、エスカレーターは既に1階リッチマン・コースの聴衆で一杯。
腰の悪い人間には厄介な会場ですな。お陰で腰痛もぶり返したよう。こういう状態の時には決してお薦めできないホールです。
議会で凄んでばかりいないで、少しは弱者のことも考えてくれませんかね。え、都知事さん。

 

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