強者弱者(4)

彼岸花

 曼珠沙華は俗に彼岸花といひ、また死人花ともいふ。彼岸の頃、池塘隴上に咲く。葉は花に先ちて枯れ色は単茎にして真紅、繖形に咲く。老婆にともなはれて六阿弥陀巡りする少女の此花を手折りて束ねたるまことに画中の人とやいはん、車馬雑踏の市中にては古川のほとり、芝園橋のやゝ下手にあたり、古き寺院の石垣に沿ひて咲き出でたるをフト見いでたる外は知らず。今は護岸工事のため其根をや絶ちけん。

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「池塘隴上」の池塘(ちとう)とは、池の堤のこと。隴上(ろうじょう)の「隴」は小高い丘、または畑の畝。

六阿弥陀とは江戸時代からあった習慣らしく、春秋の彼岸に詣でればご利益が大きいという阿弥陀如来のことで、現在の北区を中心に存在する霊場を指すそうです。祀られている阿弥陀は、いずれも行基の作だと伝えられています。
即ち、①西福寺(北区豊島) ②恵明寺(足立区江北) ③無量寺(北区西ヶ原) ④与楽寺(北区田端) ⑤常楽院(台東区池之端、ただし現存せず跡地のみ) ⑥常光寺(江東区亀戸)

この他にも東京西郊の六阿弥陀、山の手の六阿弥陀なども設定されている由。
因みに、六阿弥陀の季語は春ですから、春のお彼岸の方が一般的だったのかも知れませんね。

100年前に彼岸花が群生していたという「古川のほとり、芝園橋のやゝ下手」はどんな光景だったのでしょう。当時から古川の護岸工事が進められていたようですから、既に江戸時代の風景は失われつつあったことが判ります。
現在の芝園橋は芝公園の南に位置していて、もちろん彼岸花は見られないでしょう。

 

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