強者弱者(10)
団扇太鼓
十二日、池上本門寺の御会式、晴れたる夜のさまはいふも更なり。雨風おどろおどろしきに芝、麻布、京橋、赤坂、郊外にては渋谷、目黒、品川、碑衾など、雨中に勇ましき団扇太鼓の音を聴く。祖師が一代の悪戦苦闘、天下の権威に反抗したる革命的精神など思ひ出されて感興尽きず。
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子供の頃、本門寺の御会式が大森まで押し出してきて、“テン・テレツク・テレ・ツッツ” という激しい太鼓の音を恐ろしく聞いた覚えがあります。
芝、麻布、京橋、赤坂に対し、渋谷、目黒、品川、碑衾を郊外としているのは、100年前の東京市は15区6郡に区画されていたからです。
15区とは、麹町、神田、日本橋、京橋、芝、麻布、赤坂、牛込、四谷、小石川、本郷、下谷、浅草、本所、深川。
6郡は荏原、東多摩、南豊島、北豊島、南足立、南葛飾の六つ。
渋谷、目黒、品川、碑衾は荏原郡に区画されていたと思います。碑衾は現在では聞き慣れない地名ですが、「ひぶすま」と読みます。
現在の目黒区は、目黒町と碑衾町が合併した区。現在でも、柿の木坂の東側が碑文谷、西側は衾町です。碑文谷の碑と、衾町の衾を合わせた碑衾の名残ですね。
日蓮宗(池上本門寺)の祖日蓮は、時の鎌倉幕府や他の宗派と激しく対立した武烈の人だったそうで、御会式の団扇太鼓の激しさに日蓮の気性が偲ばれる、ということでしょうか。
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