強者弱者(15)

国賓来る

 桜葉落ち尽して、江東人稀なり。公設美術展覧会の出品、世の批評に上る。
 日光に初雪あり。国賓を迎ふる季節なり。交際社会頓に色めく。
 上野の公園竹の台のほとり、紅白の幔幕うちめぐらして、萬国々旗の色華やかなるに似ず。隊楽の響静かなる空に冴えて力なきも流石に秋なり。運動会といふに春の日の行楽も偲ばれてさみし。
 龍膽咲く。蜜柑市に上る。各呉服店七五三の祝着売出し。

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国賓を迎えるにも季節があった、というのは意外です。

上野公園の竹の台は、現在では大噴水がある所ですね。噴水を挟んで国立西洋美術館と東京都美術館がありますから、100年前から美術展覧会の中心地だったことが判ります。

明治時代の上野については、台東区のホームページに興味深い写真が満載です。これで当時を偲べるでしょう。↓

http://www.aurora.dti.ne.jp/~ssaton/taitou-imamukasi/ueno-kouen.html

「龍膽」は「りんどう」と読みます。現在では「竜胆」と書くのが普通。即ち龍膽は竜胆の旧字ということでしょうが、やや注意が必要ではないでしょうか。
というのも、どの書物かは忘れましたが、龍膽と竜胆は別の植物、という説を読んだことがあるからです。
「龍膽」は日本に古来から存在する所謂「りんどう」のこと。片や「竜胆」は「りゅうたん」と読んで中国の漢方薬に使われる植物で「りんどう」とは別物、というのですがね・・・。
あまり当てにはなりませんから信用しないように。

いずれにしても「膽」は肝っ玉のことで、読みは「タン」ですね。

文章の感じからすると、当時は東京市内でも普通に龍膽が咲いていたようです。現在の東京都内で龍膽を見つけるのは至難のことじゃないでしょうか。
今度、本気で龍膽を都内で探してみましょう。丁度今頃から咲き出すはずですから。

 

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