強者弱者(19)

十一月の初め

 各呉服店冬もの売出し。一町一区、中間組合の制を設けて球燈を掲げ、彩旗を翻して客を呼ぶものあり。麻布龍土町辺は天長節と、機動演習とを前に控へて、各商店皆色めき立つ。
 季を過ぎて尚ほ夏帽子を戴ける男の襟垢つめたきを銀座街頭に見るも哀れ深し。西洋人は未だ夏帽子なり。若き婦人皆競うて新型のショールを纏ふ。近年流行の年々に変り行くを追うて、只管に焦る女の浅猿しき姿、見るからに空恐ろしき心地す。
 此頃、毎年市内各区とも秋期大掃除を挙行す。祭日を前に控へたる商店の迷惑思ふ可し。山の手には蟆子多し。廣き邸の庭など園丁の踞して憩ふを許さず。一日二日の雨、天長節を当て込みたる小商人の顰蹙察す可し。(明治43年)

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球燈(きゅうとう)とは「ほおずきちょうちん」のこと。赤い紙を張った小さな提灯で、昔は商店の売り出しに使ったものです。

この当時は麻布区がありました。龍土町(りゅうどまち)はその一つ。詳しくはこちらをご覧あれ。↓

http://azabusaiken.ttcbn.net/machi/ryudo.html

「浅猿しき」は「あさましき」と読みます。
流行に追われる女性の姿、100年前も今も変わりありません。当時と変わったのは、現在は男性も流行を追う浅猿しき姿が多くなったこと。

秋期大掃除という習慣は無くなったようですし、山の手の蟆子(ぶゆ、ぶよとも言います)もいなくなりましたね。

この文章はハッキリ明治43年という年号が記入されています。

 

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