強者弱者(55)

梅花  三十日、孝明天皇祭、湘南の梅花正に見頃なり。東京に先立つこと約三十日。近郊に在りては大森八景園の梅、梢に莟のかたきを見る。角筈、木下川、向島、亀戸など、老幹槎枒として唯苔の色冷やかなり。 

 土曜より日曜にかけて湘南の別荘に遊びたる人、日あたりよき海のほとりに菫の花を得て家づとに携ふるを乗合せたる列車の中に見ることあり。

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1月30日は第121代孝明天皇のご命日に当たりますので、現在でもこの日は平安神宮で孝明天皇祭が行われています。不敬ながらこの文章を読むまでは知りませんでした。↓

http://www.heianjingu.or.jp/02/0401.html

東京の梅の名所がいくつか紹介されていますが、角筈(つのはず)は耳慣れませんね。実はここは新宿にあった旧地名で、梅の名所として知られていました。今の東京都庁と新国立劇場との間辺りでしょうか。「銀世界」と呼ばれた梅林があったそうです。現在の芝公園の梅は、角筈の梅を移植したのだという事を聞いたこともあります。

 木下川(きねがわ)については既に本連載で取り上げました。(28)「釣、網舟」をご覧ください。

 「槎枒」は「さが」と読みます。「枒」は環境依存文字なのでパソコンによっては表示されないかもしれませんが、木へんに牙という字。槎枒とは、木の枝の角が立って入り組んでいる様子を言います。何の解説も無しにスラスラ理解できる人は、余程の国語通と思って宜しいぞ、うん。

 

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