古典四重奏団・ショスタコーヴィチ・ツィクルスⅤ

今シーズンのクァルテット・ウィークエンド、3回目の例会は古典四重奏団のショスタコーヴィチ・ツィクルスの最終回です。
ウィークエンドと言いながら、今日はホリデイ。文化の日、昔なら天長節ですワな。

何と言う名称かは知りませんが、この日のトリトン(会場である第一生命ホールのあるビル)は物産展? 仮設舞台で演じられている「ちびまる子ちゃん劇場」に見とれ、東京名物の肉まんや最近話題のレトルト・カレーなどを買い込んで、いつもより遅れてホール入りしました。
これから演奏されるショスタコーヴィチ晩年の厳しい世界とはチトそぐわない態度ですな。

ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第13番 変ロ短調 作品138
ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第14番 嬰へ長調 作品142
     ~休憩~
ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第15番 変ホ短調 作品144
 古典四重奏団(河原千真、花崎淳生、三輪真樹、田崎瑞穂)

想像通り、というかそれを上回る緊迫感の支配するコンサートでした。古典四重奏団がまたまた打ち立てた金字塔、とでも表現すべきでしょうね。

彼らはこれまで晴海でベートーヴェン、モーツァルト、シューベルト、ドヴォルザーク、バルトークと、時に全曲、時に名作選の形で作曲家個展シリーズを続けてきましたが、ここにショスタコーヴィチの全曲演奏を完成させました。

古典四重奏団のショスタコーヴィチは、音の美しさや柔らかさに重点を置くのではなく、むしろ反対にショスタコーヴィチの厳しさや秘められた作曲上のテクニックを解き明かすことに主眼が注がれています。
古典ならではの独特のショスタコーヴィチの世界。それにしても何と独創性溢れる音楽であることか…。

第13番
ベートーヴェン四重奏団のヴィオラ奏者ボリソフスキーの70歳の誕生祝いとして作曲。冒頭、そのヴィオラが裸で弾く音の塊は、正に12音からなる第1主題。
全体が通して演奏される単一楽章の作品で、テンポの速い、これまた12音を基礎とする中間部を挟んだ三部形式で構成されています。
その中間部、奇妙な乾いた打撃音。録音で聴いているとどうやって出しているのか不思議な個所ですが、彼らは弓の木部で楽器の駒の辺りを叩いていました。スコアの英訳では「弓のスティックで楽器の胴体を叩け」(Play on the belly with the stick of the bow /シコルスキ版)と書いてありますね。
そしてヴィオラの長い独白による集結。
ヴィオリストの緊張が偲ばれますが、この日のヴィオラ(三輪真樹)は深い音色と安定したフレージングで見事に弾き切りました。

第14番
同じくベートーヴェンQのチェロ奏者シリンスキーに献呈された作品。故に、作品は常にチェロが主導権を握って進みます。
3楽章ながら第2と第3はアタッカ。この日のコンサートでは、第1楽章と第2楽章の間が唯一楽章間のパウゼ。それだけコンサート全体に緊張力が漲る結果になったのでしょう。
第1楽章にヴィオラ、続いてチェロに出るバッハ風シャコンヌは聴かせ所。聴き手の胸をグイと鷲掴みにします。
第2楽章に入って暫くのところ、第1ヴァイオリンとチェロだけの二重奏が長々と続きます。第2ヴァイオリンとヴィオラは黙祷して二人に聴き入る。ここはベートーヴェンQで生き残った第1ヴァイオリンとチェロを象徴する部分。第14番でも最も息を凝らす場面ですね。

第15番
ショスタコーヴィチの白眉。全6楽章というのも特異ながら、その全てがアダージョというのは他に類を見ません。唯一、ハイドンの「十字架上のキリスト」が思い浮かべられるだけ。当然ながら、全体は切れ目なく演奏されます。
全てアダージョとは言いながら、退屈とは無縁な音楽。そして恐ろしいほどの集中力に支えられた名演。
第1楽章の淡々としたコラール。最弱音から最強音への異様なクレッシェンドで開始される第2楽章。ここが正に12の音で綴られる12音技法! やがて始まるスローなワルツの不気味な世界。正に「死の円舞曲」でしょうか。
チェロがじっと動かない中で駆け回る第1ヴァイオリンのカデンツァは第3楽章。
pp の波に漂うノクターンの第4楽章。付点リズムが促す葬送行進曲は第5楽章。このリズムは、ベートーヴェンの「月光ソナタ」の引用と解説されますが、私にはエロイカ交響曲の葬送行進曲にも聴こえてきます。
そしてトレモロが導き出す第6楽章。このトレモロは幽霊であり、「死」そのものの象徴でもありましょう。時折鳴らされるピチカートは弔いの鐘。

この日の3曲は、演奏者はもちろん、聴き手にも極度な緊張を強いるもの。コンサートの終了は、ツィクルスの完結にも繋がって一際高い達成感に包まれました。恐らく多くの聴衆が、2年越しの全曲演奏に足を運んだ人達でしょう。
最後まで古典四重奏団のメンバーに暖かい拍手が送られていました。

しかしこれで終わりじゃないですよね。来シーズンはベートーヴェンの後半が控えていますし、その次に古典が挑むのは何か。
いや、ショスタコーヴィチだって再挑戦は必至。今回聴き逃したクラシック・ファン諸氏、古典四重奏団の動向から目を離してはいけませんぞ。絶対に・・・。

 

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です