強者弱者(22)

秋刀魚

 秋刀魚市に上る。火より脂肪の煮えたぎるばかりなるをとり、大根下しにて食ふに味またなきものなり。むさくるしき厨の隅、煤びたる豆洋燈の影ほの暗きに、七輪の炭火あかく、此魚を腹より滴る脂肪、古鉄架の上に青く燃え出でて、ほのぼのと破れたる壁に映りたるも寂し。夕暮、陋巷に人を訪うて会わず、ふと見知らぬ人の跡を追うてひたむきに霧ふかき街上を急ぐ時、此魚を焼く匂ひの高く戸外に洩れたる、漂泊の人をしてそぞろに家庭の暖かさを偲ばしむ。

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特に解説を必要とするような内容じゃありません。が、・・・。

「豆洋燈」は、「まめランプ」というルビになっています。

「鉄架」(てっか)は鉄灸(てっきゅう)とも言い、細い鉄を格子にして魚を炙るための道具。鉄製の網のことでしょう。

「陋巷」は「ろうこう」と読みますが、秀湖は単に「ちまた」とルビを振っています。要するに狭くて汚い巷(ちまた)のこと。

それにしても秋刀魚はこの頃に食卓に上る時期がきたのでしょうか。現在はもっと早くから獲れますよね。私の感覚では、11月は旬を過ぎた感じがします。

 

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