強者弱者(28)

釣、網舟

 茶の花咲く。小利根、荒川、中川、木下川、目黒川、多摩川、鶴見川など、日曜毎に釣客多し。鮒、石斑魚など此節を以て一年の好季となす。
 月漸くまどかなり。夜風稍寒けれども網舟の遊漁また悪しからず。網舟は浜町にあり、金杉にあり、高輪にあり。清興を欲するものは高輪柳屋よりすべし。投網は其面積国中他に類なしと聞ゆ。亦東京の一名物たるを失はず。

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100年前に釣が盛んだった川の名前がいくつか挙がっていますが、小利根は江戸川のこと。良く判らないのは木下川です。「きねがわ」と読みますが、現在この名称の河川はありません。
ネットなどで調べると現在の墨田区にあったそうですが、埋め立てられたのかどうか、今一つ明確な解説はないようです。

ただ、現在では荒川に架かる橋の一つに「木根川橋」がありますので、この辺りが河口だったと推測されそう。そう仮定すれば、この橋に繋がる八広中央通があるいは木下川を埋め立てた通りかもしれません。道路の曲がり方がいかにも川の痕跡を留めているような気がします。

そう言えば、この通りの北を走る曳舟川通は昔の曳舟川。明治43年の大洪水がその後の治水事業の切っ掛けになったことは間違いないでしょう。

「石斑魚」は「うぐい」。私が子供の頃、南東京では「はや」と呼んでいましたっけ。

「網舟は浜町にあり、金杉にあり、高輪にあり」とありますが、高輪だけは趣を留めていません。江戸期には高輪は東京湾を臨む景勝地でしたが、明治に入って宅地化。この文章によれば、明治末期にはまだ投網の拠点だったことが偲ばれます。

「清興」(せいきょう)とは、上品で風流な趣味のこと。正に釣、投網などは清興の代表的なものでしょう。

 

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