強者弱者(77)

白菫

 素人の見る白菫にも二種あり。蔓となりてはびこるものは花米粒より小さくして数多し。本郷、小石川、牛込の場末、至る所に之を見る可し。花の大さ普通の菫に等しきものは其数極めて稀にして蔓によりて繁殖することなし。
 菫の実生を見るに、其年は花を開かず。晩春初夏の交に至り、葉の弥よ生ひしげるにつれて先づ種子を生ず。無駄花といふことは聞けど、無駄種といふことは聞かず。訝しと莢を割りて見るに、見事なる種子あり。花なくして実を結ぶこと聖母の奇跡にもたとへんが、年少早く世の辛酸になれて、身を立てたる人の、花なく香なく過したる春の日をなつかしむ心も偲ばれてあはれ深し。

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前回に続いてスミレがテーマです。しかし、白菫という和名の植物は現在では存在していません。恐らく白花のスミレのことだと思われますが、ツボスミレ、マルバスミレ、フモトスミレなどが考えられます。

蔓となってはびこる、というのはツボスミレのことでしょうか。私は見たことはありませんが、この種類は茎が這って増えるのだそうです。しかし、花が米粒より小さいというのですから、恐らく別物でしょう。
「本郷、小石川、牛込の場末、至る所に之を見る」とありますが、現在でも見られるのでしょうか。

 

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