札幌交響楽団・第524回定期演奏会

私にとっては4回目、本拠地キタラで札幌交響楽団の定期演奏会を聴いてきました。衆知のとおり札響定期は毎月金・土の2回公演ですが、1回券では中々良い席が手に入りません。今回も1階席は端しかない言うことで、思い切って2階RBに良席を確保しました。比較的余裕があるということで、初日は12月11日(金)の公演。

キタラは音響が優れているので、むしろ音が上ってくる2階の方が聴き易い、という印象を持ちました。今後は2階を選ぶことにしよ~ッと。

雨が降り出した羽田を午前11時の便で札幌へ。金曜日の昼というのに、フライトは満席に近い混雑。週末に何かイヴェントがあるのでしょうか。
昼過ぎに乗り込んだ札幌は晴れたり曇ったりの天候でしたが、緯度が高いだけあって太陽は低く、如何にも北国に来たという感じ。

12月の札幌ということで寒さ対策を万全にして出掛けましたが、さほど寒くはありません。
翌日は札幌も小樽も天候が崩れましたが、雨なのです。この季節なら北海道は雪が降って当然なのに、雨。
それだけ暖かいわけで、中島公園にも雪はほとんど見られませんでした。

12月定期の演目は、

ショスタコーヴィチ/交響詩「十月革命」
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番
     ~休憩~
ストラヴィンスキー/「火の鳥」全曲
 指揮/広上淳一
 ピアノ/ニコライ・ルガンスキー Nikolai Lugansky
 コンサートマスター/佐藤亮太郎
 フォアシュピーラー/大平まゆみ

私の今回の狙いももちろん指揮者。11月の名古屋・京都に続く転戦で、我ながらマニア振りに呆れますが、私にとってストラヴィンスキーは広上では初体験。いつだったか、ストラヴィンスキーで一番好きなのは「火の鳥」だと語っていたので、一層期待が高まります。

そして実際、それは期待を上回る素晴らしい体験となりました。札幌まで飛んだ甲斐はあった!!

客席はかなり埋まっていました。前売りもありましたが、いつもより残席が少ないので希望者は早めに並んでください、という事前の呼びかけもあった由。
隣席の定期会員も、いつもより入っている、という感想を漏らしていました。

ストラヴィンスキーの前に紹介しなければならないのは、ラフマニノフで共演したルガンスキーの素晴らしさ。
1972年モスクワ生まれで、1994年のチャイコフスキー国際コンクールで1位なしの2位だった逸材。既に日本でもシャイーやゲルギエフと共演して名演を残しているそうですが、私は初体験のピアニスト。

プログラムには、「完璧なまでのテクニック」「透明に磨き抜かれた音色」「鋭敏なタッチを活かした瑞々しい表現」「豊かなダイナミックレンジ」「音楽の品の高さ」などという批評のエッセンスが紹介されていましたが、正にその通りでした。
嫌というほど聴いてきたラフマニノフが、まるで今作曲されたかのように新鮮な音楽に聴こえてくるのです。

もちろんソリストと息の合った札響のバックあっての名演。特に第3楽章クライマックスでのソロとオケの丁々発止は、思わず手に汗を握るスリル。思わず身を乗り出します。
それでも音楽の立ち姿に一糸の乱れも生じないのは流石に広上淳一の指揮。方向感の一致した、王道を行くロシア音楽を満喫した40分でした。

どこか飄々とした態度を崩さない青年ルガンスキー、ラフマニノフの13の前奏曲作品32から第12番の嬰ト短調をアンコールして喝采に応えます。
(札幌を制覇したルガンスキー、16・17日は東京でN響とラヴェル/左手を弾く予定。指揮はデュトワ)

冒頭のショスタコーヴィチは、マエストロ広上にとっては名刺代わりの1曲。プログラムの最初から気合十分でオーケストラを盛りたてます。特に最後は若きマエストロを彷彿させるような暴れ振りで魅せました。

メインのストラヴィンスキー。よく取り上げられる組曲ではなく、バレエの全曲版。4管編成にハープ3台という大編成ですが、この版で聴いてこその「火の鳥」でしょう。

「夜明け」で登場する“舞台上”のトランペットのうち、第3トランペットはオルガンの下、P席で吹きます。
更に続く「カスチェイ王の登場」を現わすチューバ4本(テノール2、バス2)もP席。

広上の指揮は独特なスタイルと思われがちですが、例えば冒頭(序奏)の8分の12拍子にしても「火の鳥の嘆願」の8分の9拍子にしても、タクトは基本中の基本。プレイヤーも安心して身を任せられる「棒」なのです。
その上で、有名な「カスチェイの踊り」に出現する弱音器付きトロンボーンへのキュー出しなど、彼にしか出来ない個性的なアクションでオーケストラを刺激し、自ずと作品の性格が聴き手にも伝わる。

私にとって初めてということもあったでしょうが、今回のストラヴィンスキーは最近の広上の中でも特に異彩を放つ名演と言えるでしょう。もう一度聴きたい、という欲望を抑えるのに苦労しました。
残念ながら宿は一泊。次のチャンスに期待しましょうか。

期せずして起きた大歓声に、このところすっかりスピーチづいたマエストロが舞台から客席に語りかけます。

持論である“CDはカップ・ヌードル、ナマ演奏はレストランの味”という話を枕に、また自らの豊富な海外体験を基に“クラシック音楽をヨーロッパは国が支え、アメリカは金持ちが支えています。日本では聴衆の皆さんこそが支え。市民が支えている以上、事業仕分けでオーケストラはいらない、という話にはならないはず” との語り掛けに会場からも大きな拍手が巻き起こりました。

前2都市でも振ったグリーグの「過ぎにし春」をアンコール。北国の弦合奏は格別に冴え渡って聴こえます。

この話が口コミで伝わったのでしょうか、二日目はチケットが完売したという噂も伝わってきました。

札幌は、いや、札幌も熱い!!

 

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