日本フィル・第341回名曲コンサート

先日の新日本フィルに続き、日本フィルも新しいシーズンをスタートさせました。首席指揮者にアレクサンドル・ラザレフを迎えての3シーズン目のスタートでもあります。ラザレフとしては最後のシーズンになりますが、契約は更に長期間に延長されたという情報もありますから、当分はラザレフ/日本フィルの濃密な関係が楽しめそうですね。

9月はそのラザレフが3種類のプログラムを披露します。普段は名曲シリーズをパスする私も、同コンビは出来る限り聴くべく猛暑の中を勇んで出かけました。昨日(9月5日、サントリーホール)のプロは、

グラズノフ/バレエ音楽「ライモンダ」より
     ~休憩~
ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調「新世界より」
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 コンサートマスター/扇谷泰朋

ラザレフの新世界は既に去年の1月に接していましたから、私としては珍しいグラズノフを聴きたくてチケットを購入したコンサートです。

ライモンダはベリャエフから出版されている「舞曲集」版のスコアとは全く別の選曲でした。
いつものようにドカドカと戦車の如く登場したマエストロ、拍手が鳴り止まないうちに“ドッカーン” と大砲を打ち込みます。

今年の猛暑はモスクワも襲っている筈ですが、ラザレフはそんなのお構いなし。いや却って暑さに益々燃えたのか、これまで以上にエネルギッシュな指揮でバテ気味オーケストラを引っ張って行きます。
これには聴いている方も唖然。夏バテなどは瞬時に忘れてしまうほどの痛快さに圧倒されてしまいました。

ラザレフの選曲は第3幕への間奏曲から始まり、第1幕第4景に移動。以下、ハープの長いソロが美しいプレリュードとロマネスカと続いて行きます。
ハープのソロ(松井久子)には、マエストロも客席を向いて聴衆と共に聴き惚れるのもいつものこと。

第2幕からはカスタネットが華やかなスペイン舞曲あり、エキゾチックな東洋的舞曲あり。
第3幕のヴァリアシオンⅣで登場するピアノ・ソロは、ハンガリーの民俗楽器ツィンバロンを模している由(以上の解説は山野雄大氏のプログラム・ノート)。

全体は40分もかかる盛り沢山なチョイスでしたが、ラザレフの判り易い指揮振りによって、客席も拍手の場所を間違えることなくグラズノフ・ワールドを楽しむことができました。
しかし馴染の無いバレエ、この辺が限界かな、と感じたのも正直な感想です。

後半のドヴォルザーク。前回も感じたことですが、ラザレフ独自の解釈に満ちた演奏。

例えば冒頭。出だしの低弦による pp を異様に小さい音で開始します。これに続く4小節目のホルンの fz の、これまた常識を逸脱するばかりの強音と長音。
このたった5小節を聴いただけで我々はラザレフの魔術にかかり、これまで聴いたことの無い「新世界より」に引きづり込まれていくのでした。
この開始は、前回以上に徹底していたと思われます。

同じことは第2楽章冒頭にも出現します。独特なイントネーションで奏される金管のコラールに続く弱音器付き弦合奏の ppp 。聴こえるか聴こえないかの限界まで落とした音の絨毯に乗って歌われるイングリッシュホルンの歌の懐かしいこと。

この他でも、第3楽章主部の副次的メロディー(第68小節からの Poco sostenuto)の歌わせ方。
第4楽章では練習番号2からのホルンのアクセントと、直後の第1ヴァイオリンの ffz の強調。同じく練習番号10からのギアダウン(ここでスコアには Un poco sostenuto の指示あり)など、ラザレフならではの解釈は枚挙に暇がありません。

さんざんに聴き古した新世界交響曲が、実に新鮮に耳に響いたことは申すまでもありません。

全曲の最後。ラザレフは両腕を抱え込むように響を止めるのですが、聴衆の拍手はマエストロが不動の姿勢を崩してから。前回は終了と同時、フライングに近い拍手があったように記憶しますが、今回は客席も見事でしたね。
この日の聴衆は日本フィルの常連とは異なっていたようですが、ラザレフの名演技に気押されたのかも知れません。

カーテンコールで次々に奏者を立たせたマエストロ、イングリッシュホルンの坪池泉美を指揮台に立たせたのには、楽員も大笑い。
プログラムに掲載された楽器編成には、オーボエ2(イングリッシュホルン持替1)とありましたが、ラザレフは2本のオーボエとは別にイングリッシュホルンを用意していたのです。

盛大な拍手に応えて演奏されたアンコールは、ドヴォルザークのスラヴ舞曲集から第1番。ここでは夢から覚めたように、終わるや否やの大歓声が待ち受けていました。

ということで、私にとって今月はラザレフ月間の予定です。

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