強者弱者(64)

屋上の菜の花

 チュリップの芽出づ。
 碎米菜の新芽は秋に出でて小春に生ひ、霜に傲りて此頃に至り、寒風の中に繁殖す。
 市内屋上の庭園に菜の花の莟かたきを見る。菜の花は萬頃の野に咲き出てよく、一梗、鉢に移し植えて情趣更に深し。紅塵堆裡に没して自然の寵にそむくこと多き市人が、千紫萬紅、種々の花多かる中に、ひとり菜の花を移し植えて野の趣を偲びたる心、うれしともうれし。

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「碎米采」は「げんげ」とルビが振られています。レンゲソウの別称。広辞苑には「紫雲英」や「翹揺」が載っていますが、「碎米采」はでていませんね。

「傲り」は「おごり」。これも広辞苑には載っていませんが、凌ぐという意味。古い辞書、例えば字源にはチャンと掲載されています。

「一梗」は「ひともと」。草木の一本のこと。

「紅塵」(こうじん)は市街地に立つ埃のことで、「堆裡」(たいり)はうず高く積った中、という程の意味でしょう。

「寵」は「ちょう」と読みます。可愛がられることで、寵愛などと使われます。

「千紫萬紅」は「せんしばんこう」。様々な花の色、色とりどりの花が咲き乱れる様で、これは広辞苑にも載っていました。

言葉を吟味しながら読むと、中々に骨の折れる文章です。

 

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