強者弱者(75)

東京の第一印象

 上野の森、芝の森、遠く霞を距てゝ見る杉の木立の瑠璃色なるに五重の塔の高く梢を抽きたるはわれら田舎物の初めて見たる東京市の印象なり。春風都門に入りて一日われらは必ず改めて東京市の第一印象を繰り返すを常とす。
 城南の春、漸くにして江東に入る。向島、亀戸、木下川の梅園見頃なり、日比谷公園は既に盛りを過ぎたり。

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秀湖(1884.1.7-1950.11.9)が上京したのは明治32年(1899年)の春、15歳の時でした。

上京に当っては謎が多いのですが、どうもテクテク旅で帝都を目指したようです。この時は東海道線が開通して既に10年が経過していましたから、尋常なら汽車に乗ったはず。汽車賃が払えなかったのか、親親類も面倒を見てくれなかったのか。

いずれにしても秀湖の目に映った東京の風景は、上野の五重塔の高層建築でした。
地方から上京して来た人の第一印象に上野が挙がることが多いようですが、百年前の上野で人の目を引いたのは駅舎ではなく、五重塔だったわけ。

それから100年、如何に東京が変貌したか。今や上野に降り立っても塔は見えず、ましてや芝の森から遠く霞を距てて、という風景は夢のようですね。

 

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