復刻版・読響聴きどころ(6)

2007年3月は、ゲルト・アルブレヒトの首席指揮者としての最後の演奏会。曲目もそれに相応しくマーラーの第9交響曲一曲だけでした。
実際に聴いた感想はあまり感心しなかった所為でしょうか、日記にも残っていません。

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そろそろ重い腰を上げようと思います。3月定期は1曲だけ、マーラーの第9交響曲なのですが、どうもマーラーは苦手ですね。いや、嫌いと言うのじゃないんですが、焦点を定め難いのです。何が聴きどころなのか、自分でもよく判りません。これだ、という方がおられましたらお願いします。

まず日本初演。これは私もナマではないけれど、テレビで見ました。
1967年4月16日 東京文化会館 キリル・コンドラシン指揮モスクワ国立フィルハーモニー・アカデミー交響楽団

当時の主催者発表は「ソ連国立モスクワ・フィルハーモニー交響楽団」でした。ソ連という文字は本来入っていません。
マーラーの日本初演が当時のソ連の団体というのも不思議な感じですね。

日本のオーケストラでは多分、
1973年5月11日 東京文化会館 森正指揮NHK交響楽団、です。
読響では、小史を捜してみられれば見つかりますが、1988年のレグナーです。

今回の指揮者・アルブレヒトは1997年に読響と出会った際に取り上げていましたし、会員向けにCD化されているそうです。
この演奏を体験された方、そのCDを聴かれた方は聴き比べこそが「聴きどころ」になるでしょうねぇ。

私の感覚では、アルブレヒトは極めて速いテンポを採用する指揮者です。マーラーでは第5を聴きましたが、やはり普通のマーラーとはかなり感じの異なる演奏でした。テンポも速かったと記憶しています。

上記CDの演奏時間は、
第1楽章 22:13 第2楽章 14:57 第3楽章 12:05 第4楽章 21:51 です。全体では71分ほど、やはり速いですね。
手元にある代表的なCDと比べると、
ワルター    (29:18 17:34 13:10 21:04)
バルビローリ  (26:46 14:51 13:34 23:01)
カラヤン     (28:10 16:38 12:45 26:49)

他にもありますけれど時間比較はあまり意味がありません。アルブレヒトの場合、第1楽章の速さが際立っているような感じですね。

次に楽器編成を紹介しておきます。
ピッコロ1、フルート4、オーボエ4(4番はイングリッシュホルン持替)、クラリネット4(4番はEsクラ持替)、バス・クラリネット1、ファゴット4(4番はコントラファゴット持替)、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ1、ティンパニ2、ハープ2、打楽器(グロッケンシュピール、タムタム、小太鼓、シンバル、大太鼓、トライアングル、鐘)、弦5部。

マーラーの標準からすると、金管が少ないですね。特にホルンとトランペット。ホルン4というのは第4と同じ規模です。
ハープは第2楽章には出ません。第1楽章のみ2台と指定されていますが、同じパートを弾きますので、1台でも可能です。

ティンパニに二人の奏者が必要なのは第1楽章だけです。
打楽器では、全楽章に登場するのは大太鼓とシンバル。タムタムと鐘(Fis,A,B 深い音と指定がある)は第1楽章だけに登場します。
グロッケンは2・3楽章、小太鼓は3楽章の1箇所だけですね。トライアングルは第4楽章以外に全て使われます。トライアングルは音程がありませんが、マーラーはこの楽器を5線譜上に書いていまして、第9の場合「ミ」の箇所なのですが、第2楽章ではファとラに書かれている箇所もあります。これが何を意味しているかについて解説を読んだことがありません。

以上、基本的なデータを紹介しました。また思いついたことがあれば書き足します。

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中々補足して下さる方がおられないようなので、いくつか注目点を追加しておきます。

まずパロディ。
マーラー作品にはしばしばパロディーと思われる箇所が登場します。第1交響曲のフレール・ジャックもそうですが、第9にもいくつか指摘されているものがあります。

第1楽章のしばらく行ったところ(練習番号8の4小節前、第148小節)にヨハン・シュトラウスのワルツ「楽しめ人生を」が出ます。
また第3楽章の第1副主題(練習番号31の12小節前)はレハールの「メリー・ウイドウ」から軽薄な男声アンサンブル「女の研究」が引用されます。

第4楽章では、マーラー自身の「亡き子を偲ぶ歌」の第4曲が3回出てきます。第15小節、第110小節、第164小節。学者によれば夫々意味があるのだそうですね。

そもそも全体の主題である第1楽章のテーマにある二度下降のモチーフは、ベートーヴェンの「告別ソナタ」に関係があると言われていますし、「大地の歌」の最後「告別」で、永遠に、という言葉につけた動機でもあります。

以上、明らかに「別れ」を意味する引用と、シュトラウスやレハールのように茶化したようなパロディが同居しているのも面白い所でしょうか。

次に形式。
アルブレヒトは名曲シリーズで交響曲の典型とも言うべき作品を2曲指揮します。マーラーはその交響曲の形式を壊した作曲家と考えても良いと思います。
マーラーは意図的にこういう作曲法を取ったのではないかと考えたいですね。彼は、その作品についてはブラームスに酷評されましたが、そのことへの復讐心があったのではないか、とも。

第9交響曲は声楽を伴わず、純粋な器楽交響曲です。しかも伝統的な4楽章制。しかしその中味は古典的交響曲とは全く逆ですね。
第1楽章と第4楽章が遅い音楽になっている。しかも最後は消え入るように終わる。(一番最後には「死に絶えるように ersterbend 」という指示がある)
中間の2楽章は速い、ないしは楽しげな舞曲。第3楽章だけが大音量で終わり、そのままゆったりとしたフィナーレに続く。

よく似た前例にチャイコフスキーの「悲愴」交響曲があります。マーラーはこれを真似たのではないでしょうが、意識はしていたように思います。あるいはここにもパロディを見ることが出来るのかもしれません。

もう一つ私的聴きどころ。
冒頭でチェロとホルンが呼び交わす不規則なリズムは「不整脈」と言われています。そのあとハープに出る音型ミ・ソ・ラ・ソ(移動ドによる)は「弔いの鐘」です。
これに乗って先に触れた「告別」の動機が出てきます。

第1楽章の、というよりこの曲全体のクライマックスは、この三つが最強の音量で再現してくる箇所でしょう。スコアでは練習番号15の2小節前から15の8小節あたりまで。全体の小節数では314小節から323小節まで。

タムタムが最強音で轟き、トロンボーンが「不整脈」を激しく叩きつけます。ティンパニ(1番奏者)が「弔いの鐘」をソロで強打。これを追うようにホルンがゲシュトプフ奏法で「告別」と続けるのです。

ここはトロンボーンもホルンも楽器を高く掲げて、という指示が書かれています。マーラーには良く出るお馴染みの光景ですね。更にトロンボーンには「出来る限り暴力的に」という書き込みも見えます。
つまりここは、音楽が美しく鳴ってはいけないので、如何に聴衆に恐ろしさを感じさせるか、身の毛もよだつ様な恐怖心を与えるように演奏するのかが問題。私はそう考えています。

 

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