強者弱者(81)

桜花

 東京の桜は三月の末、上野公園清水堂の池に面したる老樹より咲き初むるを最も早きものとす。四月三日の神武天皇祭には上野の花咲き揃ふを例とす。上野の桜は展望の自在を欠き、朝日に夕日に光線の微妙なる配合を見る能はざるを憾とす。
 上野に次で向島の花信到る。向島は川幅大なるに比して桜樹の矮小なるを憾とす。殊に色彩の単調に失して配合の美なきは飽き足らず。塵埃の堆きと其筋の手の行き届き過ぎたるは少なからず花の風致を害ふ心地す。

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年々桜の開花は早くなっいるように思いますが、この文章が何日に書かれたものかは判りません。東京の開花は3月末の上野が最も早いと書かれていますから、現在よりは遅かったと想像されます。
桜そのものも現在ほどには多くなかったこともあるでしょう。

私は世間で騒ぐほどには桜を好みませんが、秀湖もいろいろ難癖を付けているのが面白い所。
上野は見通しが悪く、色彩が今一つだとか、向島は桜木が貧弱で色も単調だと貶しています。要するに東京の桜の名所は広々とした大らかさが不足していると言いたいのでしょう。

私の好みでは、現在の桜はソメイヨシノ一色という場所が多く、あまりにも画一した感があるのが気に入りません。

 

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