東京フィル・第785回定期演奏会

このところの異常気象、コンサートに出かける気も失せてしまう寒さですが、気合いを入れて聴いてきました。
私にとっては久しぶりの東京フィルハーモニー交響楽団のサントリー定期です。

いわゆる東フィルは日本でも最も活動歴の長いオーケストラで、今回のプログラム誌の表紙も1911年の「いとう呉服店少年音楽隊、発足」における記念写真で飾られていました。
私はこのオケの定期会員になったことは一度もなく、時折オペラのピットや特別な機会などで接するだけ。定期演奏会を聴くのも何年振りのことでした。

今回はもちろん指揮者に惹かれてですが、プログラムも現在ではかなり珍しいオール・アメリカ・プログラムにも興味が湧きます。マエストロから寄せられたメッセージによると、“アメリカのオーケストラとの関わりの体験を活かして組んだ”ということです。
どれも作曲された年代が1930年代から40年代というのも筋が通っているじゃありませんか。

多少怖いもの見たさという気持ちがあって出かけたコンサートでしたが、中々どうして聴き応え十分の一夜でしたよ。

コープランド/市民のためのファンファーレ
コープランド/エル・サロン・メヒコ
バーバー/ヴァイオリン協奏曲
     ~休憩~
バーンスタイン/交響曲第1番「エレミヤ」
 指揮/広上淳一
 ヴァイオリン/渡辺玲子
 メゾ・ソプラノ/富岡明子
 コンサートマスター/荒井英治

当初発表されていたプログラムには、冒頭のファンファーレは載っていませんでした。会場に入って舞台を見、セッティングが風変りなので気が付きました。プログラムの曲目解説の文章から判断すると、どうも急遽決まったような印象です。
演奏会の記録は、実際に会場に出掛けてみないと分らないことがある一例でしょう。

アメリカ音楽は、やはりリズムが命。その点で広上は安心して聴いていることが出来る指揮者です。特にコープランドのメヒコやバーンスタインの第2楽章は変拍子の連続で極めて難しいと思われますが、実にノリの良いオケ・ドライヴで唸らせます。聴衆にはリズムの難しさを意識させないのも流石。
私の前方に座っていたアメリカ人?たちは大喜びで、最初から盛大な拍手を浴びせていたのが印象的。それに対して定期会員と思われる日本人たちのノリの悪いこと。普段聴きなれない音楽故でしょうか、寒さの所為でしょうか。
それでもバーバーのソロを弾いた渡辺玲子や、最後の作品への喝采は熱烈なものがありました。

そのバーバーが圧巻。渡辺のキレの良い演奏が、この曲には特に適しているように感じました。
この演奏の感動はテクニックの見事さだけにあるのではなく、第2楽章の美しいメロディーの歌わせ方の深さにこそ聴き取れるのです。この楽章の後で軽く拍手した人がいましたが、その人は確かな耳の持ち主ですな。
第3楽章の名人芸には文句なく脱帽。それはバックの広上/東フィルにも言え、バーバーの魅力を最大限に引き出して見せました。

バーンスタインのエレミヤは、多分私は初めてナマで聴きました。録音で聴くバーンスタイン自身の指揮(イスラエル・フィルとの新盤)は思い入れが強過ぎ、私には些か胃もたれする音楽に聴こえてしまうのです。
しかし広上は遙かに速いテンポで、全体をスッキリと纏め上げます。それでいて軟弱さを微塵も感じさせない堂々たる音楽。
特に第3楽章でヘブライ語を暗譜で歌い切った富岡明子の歌唱は見事でした。この作品の若々しい感動を、オーケストラの素晴らしいバックと共にホールいっぱいに響かせてくれたのです。
私は多分初めて聴くメゾですが、声質も立ち姿も堂々として、素晴らしい若手を発見した思いですね。この夜の大きな収穫。

以上、アメリカ音楽を真剣に聴く機会は意外に少ないものですが、今回のように充実した内容であればもっと多くの作品に接したいというのが正直な感想です。

ところでプログラムを見ていたら、来年1月の大野和士のプログラムが決定したようです。
メインはプロコフィエフの第5交響曲ですが、3公演とも望月京の委嘱新作が初演される由。これは聴き逃せない内容でしょう。サントリーにするかオーチャードで聴くか迷うところ。

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