東京フィル・第826回定期演奏会

今年最初の東フィル定期を聴いてきました。個人的にはサントリーホール初詣でもあります。
月曜日に降った雪がまだ融けずに彼方此方でプチ雪山を作っている寒中のこと、カラヤン広場にもいくつかゲレンデが出来ていました。以下のプログラム。

ロッシーニ/小荘厳ミサ曲(シピオーニ校訂版)
 指揮/ダン・エッティンガー
 ソプラノ/ミシェル・クライダ―
 アルト/エドナ・プロニック
 テノール/ハビエル・モレノ
 バス/堀内康雄
 合唱/新国立劇場合唱団(合唱指揮/冨平恭平)
 オルガン/新山恵理
 コンサートマスター/荒井英治

ロッシーニの宗教曲と言えばスターバト・マーテルが有名ですが、今回演奏された小荘厳ミサは、存在は知っていたものの、録音を含めて初めての体験です。
記録を調べてみると、プロ・オケの定期で取り上げられたのはニコラ・ルッチ指揮の読響(1968年)が最初のようで、これが日本初演だったのでしょうか。前日某席でオケ関係者に聞いたところ、日本フィルでも演奏して事があるそうで、“とっても美しい曲ですよ”とのこと。これまでの無知を恥じた次第。

プログラムに掲載された野本由紀夫氏の丁寧な解説によると、オリジナルは12人の歌手(ソロ4名と各パート2人ずつの合唱)に2台のピアノ!とハルモ二ウムという僅か15名の編成だったそうな。作品のタイトルに付けられた「小」とは、「小編成」の作品だったからと書かれています。
今回の演奏は、後にロッシーニ自身がオーケストレーションした版によるもので、初演はロッシーニ没後のことでした。
使用楽譜はファブリツィオ・シピオーニが校訂したロッシーニ全集版だそうで、アカデミアで検索すると1冊5万円以上もする高価なもの、学校関係でもなければ閲覧も困難な代物でしょう。ベーレンライターから普及版も出ているようですが、編者はブラウナーとゴセットとあります。これがオケ版かどうかは不明なので、スコアについてはもう少し調査する必要がありそうですな。

楽譜に拘るのも、これが期待を遥かに上回る面白い、いや素晴らしい作品だったから。決してタイトルのような「小」荘厳ミサなどでは全然なく、演奏に1時間20分も掛かる大曲です。
オリジナルの小編成故に「小」という解釈も理解できますが、ロッシーニとしては多少の皮肉も籠めて付けたタイトルのような気もしました。後にブラームスが第2ピアノ協奏曲を「小さい協奏曲」と呼んだように、ですね。

全体は14曲。管弦楽編成はフルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット3、ホルン4、トランペット2、コルネット2、トロンボーン4、ティンパニ、ハープ2、オルガン、弦5部というもの。堂々たる2管編成に充実した金管群から成ります。
特にハープ2台が特徴的で、使われるのは第5曲「クイ・トリス」のみ。エッティンガーは2台のハープを左右に分け、舞台手前、弦群の前(エッティンガーはいつも対抗配置を採ります)に配置していました。これにより音量的にも視覚的にも、作品紹介に大いに効果を上げます。当初は全曲を通して演奏するようアナウンスされていましたが、エッティンガーの意向で第7曲と第8曲の間に休憩。その休憩の間にハープは片付けられましたが、これも実に現実的な処置でしょう。

第1曲はキリエ、第2曲から第7曲までが大きな意味でのグローリア(栄光頌)で、ここまでが前半。前半の聴き所は、テノール・ソロの美しい第4曲「ドミネ・デウス」と前記第5曲。WERMに当たって見ると、第4曲にはあのカルーソーによる録音もあるそうです。

後半は第8曲「クレド」から始まり、第11曲「宗教的前奏曲」ではオルガンの長大なソロが見事。ここからア・カペラ(独唱と合唱のみ)による絶品の第12曲「サンクトゥス/ベネディクトゥス」、ソプラノの名歌で第13曲「オー・サルタリス」、そしてアルトが活躍する終曲「アニュス・デイ」までは圧巻。
初めて聴くロッシーニの宗教世界を心から堪能することが出来ました。演奏レヴェルも極めて高く、東フィルの演奏史にも残る素晴らしい定期だったと思います。

これを一度限りの体験で終わらせてしまうのは惜しい。そこで音盤を手に入れたいと思いますが、カタログに当たるとケルテス、マリナー、シャイ―などの録音があるようです。
今日は所用で銀座に出掛けますが、序にレコード店にも立ち寄ってCD漁りでもして見ましょうか。軽妙なオペラだけがロッシーニと思うのは間違いですよ、みなさん。ミサを聴かなきゃ。

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