強者弱者(95)
新緑
九十の春光既に其半を過ぎて、世は新緑の領に入る。楓は発芽最も早し。市内の樹木近年大かたは煤煙の毒する所となりて萎靡甚しけれども新緑の頃は流石に目覚むる心地す。芝、築地の町々奥ゆかしき圍越に楓の若葉の風にそよげる、さては牛込、小石川、本郷、駒込など、山の手の邸町、塵堆き枳殻の垣にやはらかき新芽の生ひ出でたる、天も地も只新なる心地清々し。
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「九十の春光」は、よく判りません。春の九十日ということでしょうし、九春という文言もありますね。
「萎靡」は「いび」。文字通り萎えて(なえ)、萎れる(しおれ)こと。
「圍」は一字で「かこい」と読みます。垣根のことですが、現在は「囲」という字を用います。
さて「枳殻」は何と読むでしょうか。正解は「からたち」です。「枳」や「枸橘」も「からたち」。
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