読売日響・第493回定期演奏会

今年はコンサート通いの回数がかなり減る予定。一回一回を大切に聴きたいと思います。
中でも読響の定期は毎回楽しみな曲目が並ぶので、サントリーホールに出掛けること自体に期待が高まります。

5月の指揮者はサンクトペテルブルグ・フィルの音楽監督、ユーリ・テミルカーノフ。旧レニングラード・フィルのことですから、ロシア指揮界の最高峰と呼んでも良いマエストロです。
1938年生まれですから、今年72歳。読響には2000年、2004年、2007年に続き4度目の登場となります。
期待に違わず圧倒的なショスタコーヴィチを聴かせてくれました。

客席の反応も物凄く、テミルカーノフには絶賛の嵐。楽員が引き揚げた後も喝采は鳴り止まず、終にはマエストロを再び舞台に引き戻したほど。

この光景はアルブレヒトやスクロヴァチェフスキの退任コンサートでも見られましたが、通常の定期、客演指揮者の一人に与えられたのは珍しいことでしょう。それほど当夜のショスタコーヴィチは聴衆の耳を鷲掴みにしてしまったということです。

ショスタコーヴィチ/交響曲第7番
 指揮/ユーリ・テミルカーノフ
 コンサートマスター/藤原浜雄
 フォアシュピーラー/小森谷巧

そう、「レニングラード」交響曲一曲だけのプログラム。あれほどカーテンコールが盛り上がったにも拘らず、会場を出たのは8時半でした。
一夜のコンサートとしては短めでしたが、満足度は120%級。いやもっと高かった、かな。

私にとってショスタコーヴィチの第7は二度目のナマ体験でした。最初は丁度36年前のN響、作曲者の息子マキシムが指揮したときです。
このときは前半に新進ピアニストだったマウリツィオ・ポリーニが日本初登場(?)してプロコフィエフの3番を弾き、その素晴らしさにショスタコーヴィチは影が薄くなった記憶があります。やたらに煩いだけ、と。

実際私の友人などは前半だけで帰ってしまい、後でショスタコーヴィチの愚策なんて聴く奴はクラシックのど素人だなどと叱られたもんです。

これがトラウマになったのか、私はどうも第7は苦手で、意識的に避けてきたような気がします。

ところが今回のテミルカーノフ/読響の演奏を聴くに及んで、私のこの作品に対する認識は180度転換してしまいました。

歴史的に見ても、この交響曲の評価は40年前と現在とでは大きく変わっていると思います。かつてこの曲はファシズムに対する抵抗とレニングラード市民の勝利という単純な図式で解説されていました。
陳腐で大袈裟、第1楽章の「戦争の主題」はボレロのパクリで、バルトークがそれを皮肉ったのだ、と。

しかしテミルカーノフの演奏で聴くと、これは純粋にシンフォニックな響きを持ち、決してハッタリなどでない真摯な音楽として聴こえてくるのでした。

何処かで聴いたような音楽的体験は、あるいはバッハであり、ある時はベートーヴェンであり、時にはマーラーでもある。具体的にどの曲というのではなく、音楽の先人達が素材としてきたイディオムをショスタコーヴィチもまた用いているのだ、ということ。
だからある部分がラヴェルだったり、ムソルグスキーだったり、レハール、ストラヴィンスキーだったりもするのじゃないか。

ショスタコーヴィチのことですから、この作品にも恋人の姿が隠されていたり、自身の本音がぶつけられていることもあるでしょう。しかしそれは、生身の人間である作曲家には誰でもあること。ショスタコーヴィチだけが特殊なのじゃない。

テミルカーノフのスケールの大きな、誰が聴いてもスコアの読みが深いと感じさせる音楽は、これまでこの曲に纏わりついていた雑念を全て打ち掃うほど圧倒的なものでした。

読響のオーケストラとしての実力は最早ワールドクラス。特にフルート、ファゴット、トロンボーンには客席からも大きな声援が送られていました。

備忘的に気が付いたこと。

プログラム誌の楽器編成に書かれていたバンダ(ホルン4、トランペット3、トロンボーン3)は所謂バンダとしてではなく、通常の位置でオーケストラの中の楽器として吹かれていたのは音楽的に見て当然のことでしょう。

ショスタコーヴィチの指示通り、ハープは2台。第1楽章の小太鼓は、練習番声39から52の3小節前までは3台に増やして演奏されていました。
また第4楽章の最後のクライマックスでトライアングルを2台に増加していたのは、恐らくテミルカーノフの指示だと思われます。

このあとテミルカーノフはチャイコフスキーやプロコフィエフを指揮しますが、残念ながら私は聴けません。個人的にはエルガーを聴いてみたいのですが・・・。

マエストロは単にロシア音楽のスペシャリストに止まらず、優れた作品に新たな光を当たるカリスマ的な側面を持つ指揮者であることは、前回の読響との共演で聴かせてくれたブラームスでも明らかですからね。

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