日本フィル・第317回名曲コンサート

いやー、今日はサプライズがありましたね。アレクサンドル・ラザレフ登場、首席指揮者就任は来年9月からですが、一足早くお披露目になるでしょう。曲目は以下のもの。

日本フィル・第317回名曲コンサート サントリーホール
チャイコフスキー/バレエ組曲「眠りの森の美女」
チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第3番
~休憩~
ショスタコーヴィチ/交響曲第5番
指揮/アレクサンドル・ラザレフ
独奏/小山実稚恵
コンサートマスター/江口有香

コンサートマスターの江口さん、日本フィルのコンサートマスター就任は2007年11月からですが、彼女もまた一足先のお披露目でした。
このコンサート、もっとお客さんに入って欲しい公演です。8割は埋まっていたようですが、それにしてももったいない。こんなサービス満点のコンサート聴かないでどうするんですか、と言いたいくらいでした。

一発目の「眠りの森の美女」からしてビックリ。思えばこんな名曲、ナマで聴く機会は案外少ないですね。私のように“名曲コンサート嫌い”は特にそうで、定期演奏会には出ない演目です。その上海外オケの来日公演などはチケット高で敬遠しますから尚更。実に新鮮に楽しむことができました。
最初の爆裂こそ、少し音が硬いんじゃないかと思いましたが、直ぐに耳がアジャスト。ラザレフのサービスを心ゆくまで味わいます。

1曲目の序曲が終わると、ラザレフさん、客席を向いてしまいます。盛んに手を振る。拍手を要求しているのかと勘違いした人もいましたが、遅れてきた聴衆に“どうぞ入って下さい”という意思表示だったんですね。クラシック音楽はそんなに堅苦しくないんですよ。
2曲目のバラのアダージョも傑作。最後ドカンと終わりますが、得意のラザレフ・フィニッシュ。客席を向いて“どぅだぁ”。ラザレフさん自らオケを称えて拍手始めちゃうんだから、こっちも釣られてパチパチパチ・・・。オケのメンバーも思わず大笑いです。
3曲目以降は普通に進みますが、ハープのソロでは客席に語りかけるよう、一緒になって聴き惚れています。
音楽的に凄かったのは最後のワルツ。散々聴かされるメロディーですが、旋律線への強弱の付け方に凄い工夫があって、エッ、このワルツってこんな曲だっけ。あっという間に終わってしまいます。

2曲目はチャイコフスキーのピアノ協奏曲。といっても有名な1番じゃなく、3番。ほとんどの人がナマでは初体験でしょう。演奏する方も初めて、という人が大半だったようです。
ソロはロシア物にかけては第一人者と言ってよい小山さん。その彼女にしても弾くのも、ナマで聴くのも初めてだそうです。
しかし、それにしては堂に入っていました。流石と言うべき。真ん中辺りに87小節にも及ぶカデンツァがあって、ここは聴衆を魅了しました。みな、固唾を呑んで聴き入ります。第3って、イイじゃないか。

ピアノの音も硬すぎず柔らかすぎず、独特の中間色の味わいが、ロシア音楽の憂愁に見事はまりました。ラザレフの導きが的確だったのでしょう、作品把握に微塵の迷いも感じられません。
この珍曲を聴くだけでも、このコンサートを聴く価値は充分です。
それにしても小山、日本フィルとの相性はピカイチじやないでしょうか。広上との協演によるスクリャービン、先日のラフマニノフ第3、そして今日のチャイコフスキー第3。どれも彼女としても会心の出来、と聴きました。

ショスタコーヴィチ第5、これは文句なく素晴らしかったですね。もちろんバレエも協奏曲も文句ないんですが、ここまでドラマティックなショスタコーヴィチ演られちゃうと、こちらは仰け反っているしか能がないです。
特に第3楽章の最弱音の美しさ、緊迫の極み。最初のバレエとは対極にある音楽ですが、ラザレフはそれを見事に振り分けます。これ、サプライズですよ。
でも驚きはこれで終わりではありませんでした。プレイヤーの動きで、アンコールがあることは分かりましたが、チャイコフスキーのバレエから何かやるのかな?

ところが出てきた音楽は聴いたことのないもの。でも何処か懐かしく、郷愁をそそる美しいメロディー。
最初はコンサートマスター江口さんの美しいソロを、他の弦楽器たちがピチカートで伴奏していくのです。そのまま終わるのかと思うと、オーケストラ全員が加わって新たなる展開。あれ、どこまで行くのか、と思ううちに、先ほどのソロのメロディーをフル・オーケストラがユニゾンで甘く切なく謳い上げるのです。ここではラザレフさん、完全に客席を向き、両手をしなやかに舞わせて、“皆さん、一緒に歌いましょう”とでも言わんばかりの素振り。
この音楽、ホント琴線に触れました。思わず知らず、熱いものが込み上げて来るのをどうしようも出来ません。
場内、大歓声。今の曲、一体なぁに???

当然帰り際に見ましたね。アンコール曲の題名。
驚くなかれ、ショスタコーヴィチ作曲・付随音楽「馬あぶ」よりロマンス。ですと。いや~、知らなかったなぁ。ショスタコーヴィチってこんな曲書いてたの?
これこそ今日一番のサプライズ、素晴らしいコンサートだったなぁ。ショスタコーヴィチ聴いて、こんな温かい気持ちで家路につけるなんて。
ブラヴォ~、ラザレフ。ブラヴォ~、ショスタコーヴィチ。

 

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください