二期会公演「ファウストの劫罰」

前日に引き続いて気分はフレンチ。上野の東京文化会館で行われている二期会の「ファウストの劫罰」を見てきました。4日間開催の初日です。

期待は、ベルリオーズのあまりにも美しい音楽と、今やフランスの巨匠的存在となったプラッソンの指揮にありました。
これは未だ初日の印象ですから、大幅に割り引きしてお読み下さいね。

ベルリオーズ/劇的物語「ファウストの劫罰」
 ファウスト/福井敬
 マルグリート/林正子
 メフィストフェレス/小森輝彦
 ブランデル/佐藤泰弘
 合唱/二期会合唱団
 児童合唱/NHK東京児童合唱団
 管弦楽/東京フィルハーモニー交響楽団
 指揮/ミシェル・プラッソン
 演出・振付/大島早紀子

この演出は、2007年の二期会「ダフネ」を担当した大島氏によるもの。彼女の演出の特色であるコンテンポラリー・ダンスを中心に据えたもので、メインダンサー・白河直子を始め、5人の女性ダンサーが見事な踊りを披露します。

開演に先立って理事長による挨拶があり、予定されていたマルグリート役の林美智子が体調不良により出演不能、替ってBキャストの同役・林正子が急遽出演するとのこと。

因みに17日のマルグリートは、カヴァーとして控えていた小泉詠子(こいずみ・えいこ)が出演します。今回の指揮者プラッソンの推薦を得て二期会デビューとなるそうですから、17日に行かれる方は別の楽しみが出来たと思ってくださいな。

最近オペラには縁遠くなってしまいました。久し振りのオペラ・ネタです。

そもそもベルリオーズの「ファウストの劫罰」はオペラじゃありません。ゲーテの「ファウスト」を題材にしたいくつかの情景を発展させて劇的物語というジャンルに押し込んだもの。
今回はオペラとして上演されましたが、作品自体に論理的発展が欠けているのです。オペラ上演する場合、その辺りが演出家の腕の見せ所でもあり、難しい点ともなりましょう。

全4部の作品、第2部と第3部の間に20分の休憩が入り、2幕仕立で構成されていました。

個人的な感想を先に書いてしまえば、演出の成否は相半ばでしょうか。

良かった点、楽しめた点は、舞台の視覚的な美しさでしょう。
前半では、舞台中央に十字架状のスペースを設定し、その空間で宙吊りのダンスが披露されます。視覚的な新鮮さ。

最後の最後。マルグリートの昇天の場面も、降ってくる星屑と照明とが目覚ましい効果を上げていました。

既に前作「ダフネ」を体験した私にとって、失礼ながらダンスそのものは二番煎じの印象になってしまったことは否めません。一つひとつの動きは感心しても、あまりにも頻繁に登場するので、時に音楽の妨げとすら感じられてしまうのです。ダンスは要所を絞り、効果的に使った方が良いのではないか。

独立した管弦楽作品として演奏される3曲、即ち「ラコッツィ行進曲」、「妖精の踊り」、「鬼火のメヌエット」のどれにもダンスが登場しますが、ファウストの夢世界という意味で、「妖精の踊り」が最も成功していたと思います。これにはブラヴィ~でしょう。

逆に物足りなかった点、疑問に感じた点をいくつか。

これは作品の性格にもよるので強くは言えないのですが、演出として全体を貫くコンセプトが見えてこなかったこと。あまりにも細部の視覚的効果に拘るので、演出家が目指している方向が、最後まで私には判りませんでした。

プログラムに掲載された創作ノートの中で大島は、「ファウストは現代の私達であって、マルグリートの夢は様々な媒体によって操作された欲望」(大意)と書かれています。
例えば上記「鬼火のメヌエット」でダンサーたちがデジカメを手に踊ったり、続くメフィストフェレスのセレナーデに登場する鬼火たちがテレビの取材クルーだったりするのは、大島の作品に対するコンセプトを表現したものなのでしょう。

しかし私にはこれがあまりにも唐突で、他の部分とのバランスに欠けているように感じてしまうのです。

歌手陣では、やはり福井のファウストが断然素晴らしいと思いました。

プラッソンの指揮はベルリオーズの華麗なオーケストレーションに光を当てるよりも、繊細で美しいフランス音楽の伝統を重視したもの。
前日に聴いたカンブルランとは正反対の方向を向いた指揮でしょう。個人的な好みで判断すれば、やはりフランス音楽はプラッソンに一日の長があると思いました。

オペラ公演そのものよりダンス、及び演出家・大島に期待して集まったと思われる聴衆からは大歓声が上がっていたことも付け加えておきましょう。
客席には批評家、同業の指揮者・音楽家など多くの「知った」顔が見られたのも、注目度の高い公演であることを証明しています。

なおプラッソンと東フィルは、このあとベルリオーズ・プロジェクトとして3回の定期演奏会に臨む由。更に公演を重ねれば、マエストロの目指す音楽はより徹底してオーケストラに浸透していくものと思われました。

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