強者弱者(151)

立秋

 立秋。『秋来ぬと眼にはさやかに見えねども、風の音にぞ驚かれぬる』炎暑依然として煩溽尚昨に異らずと雖も、智者は風の音、雲の色にさとく秋のこゝろを見る可し。
 毎年此日より寒蝉鳴く。生あるものゝ季を知るにさとき、もとより天の理なりといへども、其之を誤らざること寒蝉の如きはまれなり。余が数年の経験は寒蝉が必ず立秋の日を誤らずして鳴き始むることを教えたり。寒蝉は猶預言者の如し。蒼々鬱々たる盛夏の空に早くも来る可き凋落の秋を告ぐ。其声惆悵として咽ぶが如く、また泣くが如し。

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『秋来ぬと眼にはさやかに見えねども、風の音にぞ驚かれぬる』は古今和歌集に掲載されている藤原敏行の詩。

「煩溽」(はんじょく)は、いつまでも続いて煩わしいこと。“炎暑依然として煩溽尚昨に異らず”を現代風に書き換えれば、“連日猛暑が続き、煩わしさは昨日と一寸も変わらない” ということでしょう。

「寒蝉」(かんぜみ)は先日も出ましたが、ツクツクホウシのこと。毎年、立秋になると正確に鳴き出すという話題ですね。

私は一昨日(8月4日)、拙宅の前にある小公園の椎の木でクマゼミを聞きました。東京の蝉も様変わりしつつありますが、そろそろツクツクホウシを聞く季節。今年(2010年)の立秋は8月7日です。

「惆悵」は、「ちゅうちょう」と読みます。意味は「嘆き恨む」こと。私が子供の頃は、これで夏休みが終わって了い、“ツクヅクオシー” と聞いたものでした。

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