日本フィル・第328回名曲コンサート

昨日は私にとって2009年度最初のコンサート、サントリーホールに出掛けました。1月の日本フィルは、このシーズンから首席指揮者に就任したアレクサンドル・ラザレフを迎え、就任披露演奏会として3種類のプログラムを演奏します。その第1弾。
チャイコフスキー/戴冠式祝典行進曲
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲
     ~休憩~
ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ヴァイオリン/山田晃子
 コンサートマスター/木野雅之
最初、これは聴く予定には入れていなかったコンサートです。ところが去年の年末に “ラザレフは普通の新世界とはまるでボーイングの違う譜面を送り込んできた!” という情報を得たので、急遽チケットを手配したものです。
演奏の様子を見たいし、財政を考えてB席。2階LAでの鑑賞ですから、音響としては万全じゃありません。
客席はかなり埋まっていました。9割くらいは入っていたのじゃないでしょうかね。東京定期にもこのくらい入ってくれるといいんですが・・・。
客層はマチマチ。隣席の老夫婦は「新世界」が目当てだったようで、いつもは他のオーケストラを楽しんでいる様子。何でロシア人の新世界なんじゃ、というのが不安。ロシア人だから憂鬱なんだろう、という会話が漏れ聞こえてきます。
チューニングが完了すると、階下がドヤドヤと騒がしくなります。相変わらずのラザレフ重戦車の登場です。
客席への挨拶もそこそこに、拍手がまだ終息していないのもお構いなし、ドッ~カンという轟音と共にチャイコフスキーが炸裂します。
“オォォォ~ッ”と思わず声を発したのが隣の老紳士。あまりの衝撃に面食らった様子です。
このマーチ、私はカタログで見て存在は知っていましたが、ナマはもちろん、CDでも聴いたことのない作品です。完全な機会音楽で、1883年5月のロシア皇帝アレクサンドルⅢ世の戴冠式のために書かれたもの。中ほどにロシア国歌も出てきます。このメロディーだけはスラヴ行進曲にも登場しますから、馴染みのもの。
指揮者とオケ全体を眺められる席で見ていると、チャイコフスキーの派手さ加減が楽しめます。トランペット2本の他にコルネットも2本使われていて、如何にもチャイコフスキー。小太鼓も最後は二人で連打します。
ということで隣席夫妻はラザレフに度肝を抜かれた様子。ま、初めて接した人は誰でもそうなりますけど。
協奏曲のソロは、7年前にロン・ティボー国際コンクールを史上最年少の16歳で制した山田晃子。簡単な足し算で年齢が判るとおり、ピチピチの若手です。多分、私は初めて聴く人。
何しろ席が席ですから、詳しくは触れられません。ですが、私はこのヴァイオリン、気に入りました。特に第2楽章の歌い込みに聴き惚れた、というのが正直な感想です。
またバックが素晴らしい。ラザレフの構成力も見事ですが、その第2楽章でのオーボエ→ホルンというラインが切々たるチャイコフスキー・トーンを響かせてくれました。
昔よくあったカットは一切無し。
この若いソリストは美しいだけでなく、極めて礼儀正しい人のようで、ホール四方の聴衆に丁寧に礼をするだけでなく、弦パートの1番プルトのメンバー全員に握手を求めていました。
次はもっと前の席で聴きたい人。
さて注目の「新世界より」。
これは期待以上でしたね。なるほど他のどんな演奏とも違います。と言っても、奇を衒ったものでは決してありませんよ。至極全うなドヴォルザークです。でも、こんな新世界に接したのは初めてかも。
一言で言えば、音楽に向かう姿勢が新鮮にして真摯。私は初めてこの曲を聴いたような錯覚に襲われました。最初の一音から最後の和音まで一瞬も気を抜けない。あ、ここはこんな音楽だったのか、という新世界。
少し具体的に書いてみると、第1楽章の序奏はかなり速いテンポで始めます。そこへティンパニの強打。これが凄まじい。
主部に入るとテンポはさほど速くはなく、タップリと音楽を歌わせていきます。再現部でのフルート・ソロは二番奏者。
第2楽章が最も個性的でしょうか。最初のブラスのフレージングに特徴があって、前半と後半の二つ分けしているような感じ。メリハリが付くというのでしょうか。
その後です。弱音器を付けた弦楽のほとんど聴こえないようなピアニシモ。その上にイングリッシュホルン(ラザレフは二人のオーボエとは別にイングリッシュホルンを用意します)が懐かしさの極みであのメロディーを奏します。
マエストロは客席に向かって、何て素晴らしい音楽なんだ、という表情を向ける。聴き手は息を詰めてドヴォルザークに聴き入る。
第3楽章は、スケルツォとトリオでスピードを変えます。スケルツォが時速80キロなら、トリオは60キロくらいかな。そして再びティンパニの豪打。
第4楽章は、そう、アドレナリン出まくり。そう言うしかないでしょうか。指揮台をフルに活用し、ホルンにはライオンの咆哮を求めます。スコアを見て指揮するのですが、メガネが飛ぶのではないかと見ている方がハラハラする。
アンコールがありまして、ドヴォルザークのスラヴ舞曲から作品72の2。最後の消えていく部分でマエストロは両手をヒラヒラと舞わせ、メインではややフライング気味だった拍手を見事に制していました。
いや~、参ったな。こんなロシア人初めて、こんな新世界聴いたことない、オケも良いねえ~。というのがお隣さんの感想。
私も同感。

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