日本フィル・第640回東京定期演奏会

昨日は先週の横浜に続き、猛将ラザレフ率いる日本フィルのサントリー定期を聴いてきました。「ラザレフが刻むロシアの魂」と銘打ったシリーズですが、シーズンⅠ ラフマニノフ3 とナンバリングまで加えられてヤル気満々の日本フィルではあります。少なくともシーズンⅤまでは続く勢いでしょう。
皆さん、そのためにも公益財団法人認定に向けての支援に協力しましょうね、と宣伝して今回のプログラムは、

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番
     ~休憩~
チャイコフスキー/交響曲第3番「ポーランド」
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ピアノ/上原彩子
 コンサートマスター/木野雅之
 ソロ・チェロ/菊地知也

そう、3番を2曲並べたボリューム感一杯のロシア・プロです。
ラフマニノフとチャイコフスキーは、プログラムに書かれているように、若きラフマニノフを巨匠チャイコフスキーが賞賛したという関係。今回の2曲は、プログラムにはありませんでしたが、ニューヨーク繋がりという側面もありそう。
確かチャイコフスキー第3は、ロシア以外で演奏されたのはニューヨークが最初だったと記憶しますし、ラフマニノフの第3協奏曲はニューヨーク初演。再演は作曲者のソロにマーラー指揮という豪華版でしたから、もし録音が残っていれば大変なドキュメントとなっていたでしょう。

聞く所によると、この所のラザレフ人気は凄まじい由。この日もテレビ取材(BS-TBS)が入っていましたし、著名音楽雑誌でもラザレフ特集が組まれているのだとか。その雑誌には先のラフマニノフ/第1交響曲の圧倒的名演がCDとして付録になっているそうで、久しくその雑誌を見ていない私も思わず書店を覗こうかと誘惑されるほど。
それを反映してか、金曜日定期ですら会場は満席に近い入り。日フィル定期では見掛けたことの無い顔にも出会って旧交を温めた時間も。
個人的には何を今更、と思わないでもありませんが、ラザレフは日フィルに初登場したときから今のラザレフと変りありませんでした。チャイコフスキー、ショスタコーヴィチ、プロコフィエフと次々に放った豪快な演奏の数々は、私にとって一生忘れられるものではありません。今回も全く同じ、記憶のファイルに新しい1ページが刻まれました。

ラザレフがリハーサルでたとえ1秒たりとも疎かにしないのは夙に有名で、楽員諸氏はマエストロの特訓が苦痛を通り越して快感になってきているそうな。“またラザレフかぁ~(笑)”というボヤキも聞こえてきました。日フィルは素晴らしい指揮者を獲得したものです。

そのラザレフがリハーサルを早目に切り上げたというのが、今回のラフマニノフ第3協奏曲。ソロを務める上原彩子のテクニックが余りにも完璧だったからだそうな。

確かに上原のピアノは完璧でした、テクニックという意味で。情緒纏綿たる演奏というより、ダイナミズムと推進力を武器とするラザレフにとって、このピアニストは相性がピタリと合うのでしょう。マエストロも嬉々としてバックのタクトを振っていました。
私としてはもう少しロマンティックなラフマニノフ、より多彩な音色、透き通るようなフォルティッシモが欲しかったのですが、流石にフィナーレの熱演には圧倒されましたね。

後半のチャイコフスキーは、正にラザレフの独壇場でしょう。余り演奏されない作品を取り上げ、これまで聴いたことの無いような佳曲の魅力を惹き出して見せる、というのがマエストロの最も得意とするところ。先のラフマニノフ第1に続き、チャイコフスキーの第3もラザレフ嗜好に最適の一品です。
毎度のことながら、エッ、ポーランドってこんな凄い曲だっけ!!

相変わらず猛スピードで突き進みながら、アンサンブルは細部まで磨き上げられていること。弦も管もリズム、音程共に最高級の合奏でした。これ、緻密かつ徹底したリハーサルの賜物でしょう。再び楽員氏の言葉を借りれば、リハであれだけ叩き込まれているので、本番は安心して演奏出来るとのこと。

カーテンコールでのサービス振りもスッカリお馴染み。両の親指を垂直に立て、“凄いオケだろ”と、サービス満点のリアクション。ここまで見せられると、この人本気? と思ってしまいますね。実際に本気なのだから嘘が無い。
最後はチャイコフスキーへの愛、スコアを高々と掲げ、作品が素晴らしいのだ、ということを聴衆にアピールして舞台を降ります。

なお、今回取材の映像は来月オンエアの予定。カンヌ映画祭には出ませんので、お間違えなく。

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