今日の1枚(108)

引き続きロシア音楽を集めたディスクに拘ります。今日はアンセルメ・ロシア音楽コンサートと題された2枚組のCD。2000年5月にキング・レコードから発売された「ロンドン・スーパー・ツイン2000」という2枚で2000円(税込)の廉価シリーズの1点。もちろん日本盤です。
品番は KICC 9375/6 。特に特別なマスタリングではないようですね。

全てエルネスト・アンセルメ Ernest Ansermet 指揮、スイス・ロマンド管弦楽団 L’Orchestre de la Suisse Romande の演奏で、デッカ原盤。今回は2枚組の1枚目を聴きましょう。

①ムソルグスキー(ラヴェル編)/組曲「展覧会の絵」
②ムソルグスキー(リムスキー=コルサコフ編)/交響詩「はげ山の一夜」
③ムソルグスキー(リムスキー=コルサコフ編)/歌劇「ホヴァンシチーナ」前奏曲
④グリンカ/歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
⑤ボロディン/交響詩「中央アジアの草原にて」

当CDに記載されたデータは、
①は1959年1月。②③④が1964年4月、⑤は1961年3月。全てアナログによるステレオ録音です。

記載されているデータはこれだけですが、録音場所はジュネーヴのヴィクトリア・ホール Victoria Hall で間違いないでしょう。
プロデューサーやエンジニアの名前は記載されていません。別の資料にも当たってみましたが、明記されたものはないようです。

録音はいずれもデッカのヴィンテージもの。流石に最新のディジタルに比べれば年代を感じさせますが、現代のものにない豊かなエネルギーが感じられる名録音でしょう。

アンセルメの膨大なカタログは何度もカップリングを組みかえられて再発売を繰り返してきましたから、オリジナル・カップリングがどのようなものであったのかが分かり難くなっています。
私の古い記憶では、①はリストの交響詩「フン族の戦い」とのカップリングだったように思います。またデータが示すように、②③④は1枚のアルバムで、LPA面がムソルグスキー小品集、B面がグリンカ小品集だったような気がします。

面白いのは①で、アンセルメ/スイス・ロマンドはステレオで二度録音、こちらは二度目のテイクです。一度目は1958年4月録音ですから、旧録音から僅か9ヶ月で録り直したことになり、何か期する所があったのでしょう。

新録音では、「古城」に注目。そのコントラバスのパートを注意して聴きましょう。
練習番号27の2小節目と3小節目、スコアでは終始ピチカートとなっていますが、アンセルメはここをアルコとピチカートを交互に弾くように変更しているのです。それは同じことを繰り返す練習番号29の4小節目と5小節目も同じ。
ここは、1958年録音ではスコア通りに終始ピチカートで弾いていますから、アンセルメが特に録り直したかった箇所かと思われます。

「鶏の脚の上に立つ小屋」の打楽器も指揮者によって加筆が行われる箇所で、アンセルメも例外ではありません。
1959年録音の当盤では、練習番号86の4小節目は小太鼓に変更(ブージー版スコアのシンバルは印刷ミスでしょう)。再現部に移り、練習番号94の10小節にティンパニ2発、99の5小節目に小太鼓、同9小節目にティンパニを加筆しています。
練習番号99は同86と相似形を構成するので、提示と再現で整合させるための処置と考えられ、如何にも数学者アンセルメの拘りが感じられます。

もう一つ興味深いのは、「キエフの大門」の最後、練習番号121からパイプ・オルガンを加えていること。もちろんヴィクトリア・ホールの有名なオルガンでしょう。漠然と聴いていると聴き損なうかも知れませんが、注意すればオルガン独特の密度の濃い響きが聴き取れるはずです。
(このオルガンは1958年録音でも追加していました)

②同様、③もリムスキー=コルサコフ編と記載され、オイレンブルク版のスコアにも明記されていますが、この前奏曲はムソルグスキー自身のオーケスレーションじゃなかったかしら、ね。

④は、前々回で取り上げたサヴァリッシュ同様、第213小節にティンパニの「レ・レソレ」を追加しています。もちろんこのアンセルメ盤の方が古い録音ですし、サヴァリッシュはスイス・ロマンドと仕事をしていた時期がありますから、あるいはアンセルメのアイディアをサヴァリッシュが踏襲した可能性もあると思います。

アンセルメの指揮は真に冷静そのもの。①のクライマックスでも決して激することなく、クールにオーケストラのバランスを見事に実現しているのがアンセルメの魅力でしょう。

参照楽譜
①ブージー・アンド・ホークス No.32
②オイレンブルク No.841
③オイレンブルク No.695
④オイレンブルク No.639
⑤オイレンブルク No.833

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