一日遅れの凱旋門賞

日・月の二日間、義母の葬儀に参列してきました。フランス競馬とは対照的な世界。
斎場の施設で夜を明かすことになり、そこのテレビで世俗のニュースを知った次第です。ナカヤマフェスタが2着という結果あってこその報道でしょう。

それにしてもNHKさん、凄いじゃありませんか。勝った馬の名前を一言も言わないんですからねぇ~~。いい度胸してます。
でも私は即座に判りましたね。地アナのボケボケ画面でも、カーリッド・アブダッラー殿下の勝負服が内でナカヤマフェスタを首差抑えたことを。“お、ワークフォースだぁ~”。
直ぐに頭に浮かんだのは、スタウト師にとって悲願の凱旋門賞初制覇、という祝報。

現地からのレポートが何を、どう伝えているかが気になりますが、両手一杯に重い荷物を抱え、ヘトヘトになって旅装を解いたのは、昨日(月曜日)の夜9時。やおら英国電子競馬新聞をクリックして全レースの結果をチェックしましたが、それをブログの記事に書き上げる体力は残されていませんでしたな。

ということで、一日遅れの凱旋門賞フェスティヴァルのレポート。本来なら凱旋門賞の結果が最初に来るのでしょうが、既に一日が経過しては賞味期限が切れてしまいました。日曜日のプログラムを、レース順にゆるゆると記録していきましょうか。

以前にも書きましたが、この日のロンシャンはパターン・レース7鞍が全てGⅠの豪華版。最終レースにハンデ戦があって1日8レースですが、第1レースからGⅠレースと息の吐けないプログラムです。では、

第1レースはカドラン賞(GⅠ、4歳上、4000メートル)、8頭立て。最初から今年の開催のポイント、重馬場(というより不良馬場。発表は very soft です)が大きく影を落とします。

13対10の1番人気に支持されたのは、今年バルべヴィユ賞(GⅢ)とモーリス・ド・ニエイュ賞(GⅡ)に勝っているブレク Blek でしたが、何とドン尻8着の惨敗。重は得意のはずの馬ですが、それでもこの結果です。

レースはそのブレクが先頭、重の4000メートルということもあって、淡々と隊列が進みます。
レースが動いたのはフォルス・ストレートから、人気の一角(14対5)カスバー・ブリス Kasbah Bliss が抜け出したものの、終始最後方で待機したジェントー Gentoo が鋭く伸びて優勝。2着ウインター・ドリーム Winter Dream に2馬身半の差を付けていました。
更に1馬身半差3着にカスバー・ブリスの順。

勝ったジェントーは42対10。トライアルであるグラディアトゥール賞(GⅢ)に続くパターン・レース2連勝です。陣営としては順当な結果でしょう。
その陣営とは、アラン・リオン調教師、ジェラール・モッセ騎手。

3着に敗れたフランソワ・ドゥーメン調教師曰く、“1に馬場、2に馬場、3に馬場”とのこと。全ての敗者から“この馬場じゃねぇ~” というコメントが聞かれました。

第2レースはアベイ・ド・ロンシャン賞(GⅠ、2歳上、1000メートル)、21頭立て。カドラン賞以上に馬場状態が結果を左右したようです。

9対5の1番人に支持されたのは、ここフランスでモトリー賞(GⅢ)、プティ・クーヴェール賞(GⅢ)を含めて3連勝中の英国馬スイス・ディーヴァ Swiss Diva でしたが、中団で揉まれたまま良い所なく13着惨敗に終わりました。

優勝は、1番枠から積極的なレースで他馬を振り切ったギルト・エッジ・ガール Gilt Edge Girl 。何と53対1という後ろから7番目の大穴でした。
1馬身差2着にレディー・オブ・ザ・デザート Lady Of The Desert 、更に1馬身半差3着がマール・アルデント Mar Ardent の順。
かつてフランスのスプリント・チャンピオンに君臨したマルシャン・ドール Marchant D’Or が追い込んできましたが、これは4着まで。

マルシャン・ドールは明らかに斜行して他馬に影響しましたが、審議の結果、着順通りで決定しています。

勝ったギルト・エッジ・ガールはクライヴ・コックス厩舎、ルーク・モリス騎乗。調教師にとっても騎手にとってもGⅠ初制覇となりました。またモリス騎手にとっては、同馬で今年6月10日にアイルランドのレパーズタウン競馬場でバリオーガン・ステークス(GⅢ)を制したのがパターン・レース初勝利。モリスくんにとっては生涯忘れられない牝馬になるでしょう。

続いては2歳馬のGⅠレースが続きます。第3レースはマルセル・ブーサック賞(GⅠ、2歳牝、1600メートル)、8頭立て。

7対10の圧倒的1番人気に支持されたエレボリーヌ Helleborine は、トライアルであるオマール賞を圧勝した馬。目下3戦無敗で1000ギニーの本命と目されている逸材です。

レースはマムビア Mambia が強いペースで逃げ、本命エレボリーヌは4番手の外。ゴール前200メートルでは先頭に立つ勢いでしたが、終始2番手を進み、一旦は交わされた2番人気(3対1)のミスティー・フォー・ミー Misty For Me が二の足を使って差し返し、エレボリーヌに1馬身差を付けての優勝です。
更に3馬身遅れて3着にゴスデン厩舎のレインボウ・スプリングス Rainbow Springs 。

初黒星を喫したエレボリーヌは、やはり重馬場で伸び脚を欠いたのが敗因。来年の1000ギニーに向けた本命クラスであることには変わりありません。

一方勝ったミスティー・フォー・ミー、エイダン・オブライエン厩舎の管理馬で、もちろんジョニー・ムルタ騎乗。前走モイグレア・スタッド・ステークスに続くGⅠ2連覇となります。
これで1000ギニーへのオッズは6対1に上がり、ブックメーカーにより多少見解の相違がありますが、2番手の存在に上がって来ました。

得意満面のオブライエン師は、“ガリレオ Galileo の牝馬で6ハロンの新馬勝ち、7ハロンと1マイルでGⅠに勝てば、もうクラシックに行くしかないでしょ” 。1000ギニーだけでなくオークスも狙える存在です。

第4レースはかつてのグラン・クリテリウムである、ジャン=リュック・ラガルデール賞(GⅠ、2歳、1400メートル)。10頭立てでしたが、オブライエン厩舎が登録を済ませていたサミュエル・モース Samuel Morse が前々日のミドル・パーク・ステークス(6着)に回ったため取り消し、9頭立てで行われました。

11対4で1番人気に支持されたのは、パターン・レース初挑戦ながら2戦無敗のムーンライト・クラウド Moonlight Cloud です。
しかし5番手に付けた本命馬、伸び脚は今一つで4着に終わりました。

優勝は、見事に逃げ切ったウットン・バセット Wootton Bassett という新星。それでも4対1は2番人気に支持されていた馬です。
2馬身半差2着は同着で、最後方から追い込んだマイグリ Maiguri と、これも後ろから3番手を進んだティン・ホース Tin Horse 。この2頭から1馬身差4着がムーンライト・クラウドでした。

勝ったウットン・バセットは、イギリスから挑戦したリチャード・ファヘイ厩舎、ポール・ハナガン騎乗。地味なレースばかり4連勝、パターン・レースは初挑戦で初勝利ながら、ヨークシャーに本拠を置く調教師と今年リーディングを争っている騎手に初めてのGⅠをプレゼントしました。

これで5戦5勝。16対1のオッズが出されて、来年の2000ギニー候補の一角に顔を出してきましたね。
歓喜に躍るファヘイ師、当然ながら自身が調教した中でのベスト・ホースと讃え、スピードとスタミナを上手く配合した血統だけに1マイルは問題なし、と期待を膨らませたようです。

第5レースは、個人的にはこの日最も注目のラ・フォレ賞(GⅠ、3歳上、1400メートル)、10頭立て。歴史に名を残す女傑ゴールディコヴァ Goldikova 、彼女の永遠のライヴァルであるパコ・ボーイ Paco Boy 、そしてその同厩の3歳ディック・ターピン Dick Turpin の対決は見応え十分。
更に加えて英仏ギニーのスペシャル・デューティー Special Duty 、去年のグラン・クリテリウム馬シユーニ Siyouni と役者が揃い、こうなれば馬場状態などは問題にならない顔ぶれでしょう。

ゴールディコヴァが7対4で1番人気、2番人気は9対2でパコ・ボーイ、5対1の3番人気がディック・ターピン。オッズすら予測できるほどのメンバーです。

そして実際、重馬場は全く結果に影響を与えませんでした。強い馬はどんな馬場でも強い、という実例でもあります。

一旦はリーガル・パレード Regal Parade が先行するゴールディコヴァを交わす場面もありましたが、最後はゴールディコヴァの実力勝ち。オッズ通り半馬身差2着に最後方から追い込んだパコ・ボーイが入り、更に半馬身差でディック・ターピンが続きます。
リーガル・パレード4着、ジョアンナ Joanna 5着、スペシャル・デューティーは6着、シユーニ7着という結果。

フレディー・ヘッド厩舎、オリヴィエ・ペリエ騎乗のゴールディコヴァは、これがGⅠレース11回目の優勝。GⅠ勝鞍数でヨーロッパ・レコードを更新し、歴史の1ページを刻みました。
ヘッド師は直後に、これが彼女のフランス最終戦を宣言、このあとはブリーダーズ・カップ3連覇の偉業に挑みます。

またしてもゴールディコヴァ対決に敗れたハノン陣営、今回はパコ・ボーイにエース格リチャード・ヒューズが騎乗し、ディック・ターピンはライアン・ムーアのコンビで臨んでいました。

そのライアンに栄光が訪れたのが、日本のマスコミも挙って注目した第6レースの凱旋門賞(GⅠ、3歳上、2400メートル)。

実は、火曜日の時点では26頭が登録していました。木曜日の締切では、このうち6頭が断念、替ってロぺ・デ・ヴェーガ Lope De Vega とマリヌース Marinous が高額な追加登録料を支払って新規に出馬宣言し、この段階で22頭立て。
最後の段階での追加登録料は10万ユーロ。日本円にすれば1000万円以上の出費ですが、特にロぺ・デ・ヴェーガは仏ダービー馬で、事前の状態があまりにも良かったため、敢えて距離不安を抱えても出走に踏み切った経緯があります。

話はこれで終わりません。明確な報道を見ていないので憶測ですが、恐らく凱旋門賞は「ティエルセ」という馬券の対象になったと思います。
馬券には詳しくなく、興味もありませんが、確かティエルセは1着から5着までを的中させる馬券で、着順通りのオルドル、連勝複式に相当するパゾルドルがあります。
私が渡仏した当時はカフェで気軽に買える馬券で、フランス全土に大人気のシステムですね。

ただティエルセは対象に出来るのが20頭まで。そのために2頭が除外になったのではないでしょうか。最終的に20頭立てで枠順が発表されたのには、そんな裏があったような気がします。

しかしいずれにせよ、最終20頭からタラモア Tullamore が取り消し、ゲートに収まったのは19頭でした。
混戦、不良馬場も加わって人気は分散され、結局7対2の1番人気にはグラン・プリ・ホースでトライアルも順当に勝った重巧者のベーカバッド Behkabad 。2番人気は9対2でフェイム・アンド・グローリー Fame And Glory が選ばれ、ベーカバッドのライヴァルであるプランテール Planteur が11対2の3番人気。
以下6対1で英ダービー馬ワークフォース Workforce 。単勝10倍以下はここまでと、混戦ムードを反映した人気になっていました。
因みに日本馬は、ナカヤマフェスタ Nakayama Festa が22対1、ヴィクトワールピサ Victoire Pisa が40対1で、現地ではナカヤマフェスタを上位に取っていましたね。

ということでスタートが切られましたが、レース内容は既に放送されていますから繰り返しません。

優勝はワークフォース。頭差2着惜敗でナカヤマフェスタ、2馬身半差3着に入ったサラフィナ Sarafina は今年の仏オークス馬で、出走馬中唯一の3歳牝馬。
更に1馬身半で本命ベーカバッド4着、1馬身で2番人気のフェイム・アンド・グローリーが5着で続きました。

武騎乗で日本では大いに期待されたヴィクトワールピサは8着入線でしたが、7着でゴールしたプランテールが最下位降着となったため、最終的には7着で確定しています。

最初にも書いたとおり、ワークフォースはサー・マイケル・スタウト調教師にとって悲願の凱旋門賞初制覇です。世界的にも数々のGⅠを制したスタウト師にとって、唯一無冠だったのが凱旋門賞調教師のタイトル。
特に今年はキングジョージをハービンジャー Harbinger で圧勝し、いよいよ凱旋門賞に王手がかかっていました。しかし好事魔多し、ハービンジャーがレース生命を絶たれる故障を発症し、そのキングジョージでは2番手候補のダービー馬ワークフォースが惨敗と、またも運命の女神に見放された時期がありました。

しかしワークフォース、キングジョージの後じっくり休養して秋に備え、最終調教の良さからスタウト師のゴーサイン、正に“Let’s Go Work” との判断が下されて出走に踏み切ったのでした。そして、神は見捨てていなかった!!

騎乗したライアン・ムーアにとっても、もちろん凱旋門賞は初タイトル。今年は英クラシック・ダブルに始まり、凱旋門賞制覇と言うことないシーズンになったと言えましょう。

ワークフォースのオーナー、カーリッド・アブダッラー殿下にとっては、1985年のレインボウ・クエスト Rainbow Quest 、翌年のダンシング・ブレーヴ Dancing Brave 、2006年のレイル・リンク Rail Link に続く4勝目となります。

ワークフォースとナカヤマフェスタの叩き合いはスリリングでしたが、それを上回るドラマがありましたね。
多頭数では避けられない接触、進路妨害の悲劇です。長い審議があり、先に紹介したように7着入線のプランテールが最下位に降着。最も大きな影響を被ったのは、ムルタ騎乗のフェイム・アンド・グローリーだったようです。
“これこそインターフェアだ!!” と怒り心頭のオブライエン師。去年6着の雪辱は果たせませんでした。

この結果、プランテール騎乗のアンソニー・クラスタスは二日間の騎乗停止が課せられています。

その他にもトラブルは多く、些か後味の悪い凱旋門賞になってしまいましたが、トラブルとは無縁だったスタウト陣営は、早々とセレブレーションに酔いました。

1999年、エルコンドルパサーで2着(優勝はモンジュー Montjeu)した二宮/蛯名コンビはまたしても悔しい2着。
師は開口一番“また2着、いつも2着” と嘆きましたが、その台詞はスタウト師にも言えるのです。そう、スタウト陣営はピウスーツキ Pilsudski (日本ではピルサドスキーと呼んでましたっけ)で1996年と1997年に連続2着でしたから、ね。

更に今年もチャレンジしたユームゼイン Youmzain は2007年から2009年まで3年連続2着。今回は10着と振るいませんでしたが、同馬を管理するミック・シャノン師にとっても、“また2着、いつも2着” は活きています。

二宮氏、また次、という希望があるじゃありませんか。今回の好走は世界的に見ても絶賛もの。タイムフォームが付けた日本馬最高のレートはエルコンドルパサーの136ですが、ナカヤマフェスタのランクや如何に。来年のレースホース誌が楽しみですね。

(凱旋門賞の負担重量は3歳馬に有利という意見もありますが、長年のデータでランキングしているタイムフォームの計算では、ほぼ互角の均量差。言われるほどの有利不利はなく、着差をほぼ馬の実力と見做して良い、というのが私の意見です。即ち10月前半の2400メートルでは、古馬と3歳の実力換算は8ポンド差。)

ワークフォースは史上6頭目となる英ダービー/凱旋門賞ダブル達成。シーバード Sea Bird 、ミルリーフ Mill Reef 、ラムタラ Lammtarra 、シー・ザ・スターズ Sea The Stars 等の名馬の仲間入りを果たしました。
何より嬉しいニュースは、スタウト師から来年も同馬の現役続行が伝えられたこと。凱旋門賞2連覇なるか、が来年の最大の話題になるでしょう。

GⅠ7連発の最後、第7レースはオペラ賞(GⅠ、3歳上牝、2000メートル)、11頭立て。6対4の1番人気に支持されたのは、5つ目のGⅠ制覇を狙う4歳のスタチェリータ Stacelita 。ドイツの女傑アンタラ Antara (4対1)、去年のマルセル・ブーサック覇者ロザナラ Rosanara (8対1)、上がり馬リリー・オブ・ザ・ヴァレー Lilly Of The Valley (7対1)などが続きます。

レースはアンタラの逃げで始まりましたが、2番手でマークした本命スタチェリータが抜け出した所に3番手に控えたリリー・オブ・ザ・ヴァレーが襲い掛かり、スタチェリータに4分の3馬身差を付けて優勝。
更に6馬身離された3着にフレール・アンシャンテ Fleur Enchantee が入りました。
武豊を鞍上に迎えたパスカル・ベイリー厩舎のダリオール Dariole (25対1)は、最後方から伸びず9着敗退。

これで今シーズン5戦無敗となるリリー・オブ・ザ・ヴァレー、ジャン=クロード・ロジェ師の管理馬で、イオリッツ・メンディザバル騎乗。徐々にクラスを上げ、シャンティーのクロエ賞(GⅢ)、ドーヴィルのノネット賞(GⅢ)に続くパターン・レース3連勝で、GⅠ戦は初制覇となります。

恐らく来年は頂点、凱旋門賞を目標にしてくるでしょう。

以上、フランス競馬の祭典でしたが、日曜日はひっそりとアイルランドのティッぺラリー競馬場でもパターン・レースが行われました。アイルランドでは今シーズン最後から2番目のパターン・レース、コンコルド・ステークス(GⅢ、3歳上、7ハロン100ヤード)は11頭立て。

結果は3対1のエミュラス Emulous が、13対8の1番人気でアガ・カーン所有のケレダリ Keredari を1馬身4分の3差抑えて優勝しています。10馬身も離された3着にオブライエン厩舎のエア・チーフ・マーシャル Air Chief Marshal 。

勝ったエミュラスは、デルモット・ウェルド厩舎、パット・スマーレン騎乗というささやかなレポートです。

これで激動の週末レポートもお仕舞い。さすがに疲れましたワ。
私にとっては、話題多い凱旋門賞より、ラ・フォレ賞が今年のベストでしょうね。ナマで観戦したら鳥肌ものだったはず。

ヨーロッパの平場シーズン、特にパターン・レース・クラスは残り1か月になりましたが、個人的には終戦ムードですねぇ~。
特に今年はそんな脱力感に襲われています。最早心の中では、“ほたぁるのひかぁり、まどのゆうきぃ~” 。

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