今日の1枚(110)
折角ですから、もう1枚だけロシア音楽名曲集を聴きます。年代がずっと古くなって(そうでもないか)、アルトゥーロ・トスカニーニ Arturo Toscanini 指揮するNBC交響楽団 NBC Symphony Orchestra による「ロシア管弦楽曲集」。
①チャイコフスキー/組曲「くるみ割り人形」作品71a
②チャイコフスキー/幻想序曲「ロメオとジュリエット」
③グリンカ/ホタ・アラゴネーサ(スペイン舞曲第1番)
④グリンカ/幻想曲「カマリンスカヤ」
⑤リャードフ/交響詩「キキモラ」
⑥プロコフィエフ/古典交響曲
BMGジャパンが1998年に発売した「トスカニーニ・エッセンシャル・コレクション」という廉価盤シリーズの1枚。当シリーズは先に出た「トスカニーニ・ベスト・セレクション」というシリーズに続く第2弾で、全20タイトルの一つです。1枚1000円、K2レーザー・カッティング、オリジナル・デザインのブックレット使用というのが売りでした。
品番は、BVCC-9712 、シリーズの第11集です。
もちろんCD用にカップリングしたものですから、初出の選曲とは関係ありません。オリジナル・デザインとありますが、この盤は面白いことにブックレットの表と裏に2種類のジャケット・デザインが使われています。
表は「くるみ割り人形」用のジャケットで、バレリーナにくるみ割り人形をあしらったイラスト。極めて小さい文字が印刷されていて、辛うじて Photo Ballerina Janet Reed と読めます。もう一つ Sacks という文字も。これはイラストレーターのサインでしょうかね。
バレエについては不案内ですが、ジャネット・リードという人は当時の有名なバレリーナなんでしょうか。
一方裏はロメオとジュリエットのジャケットで、チャイコフスキーとベルリオーズの同曲が組み合わされたLP盤のデザイン。
どうでも良い様なことでしょうが、コレクターには興味ある一枚でしょう。
録音データ等は、
①1951年11月19日、カーネギーホール。プロデューサーは Richard Mohr 、エンジニアが Lewis Layton 。
②1946年4月8日、カーネギーホール。 プロデューサーは Macklin Morrow 、エンジニアが Fred Lynch 。
③1950年3月4日、NBC8Hスタジオで、NBCの放送録音。
④1940年12月21日、NBC8Hスタジオで、これもNBCの放送録音。
⑤1952年7月29日、カーネギーホール。
⑥1951年10月15日、カーネギーホール。
⑤⑥のプロデューサーとエンジニアは①と同じで、③④は放送録音のため技術者名はクレジットされていません。
トスカニーニですからもちろん全てモノラル録音で、1940年から1951年までの11年間の様々な音質による録音が混在するアルバム。当然ながら年代の新しい①⑤⑥が優れています。特に①⑤はモノラル盤としても最優秀の部類に属するでしょう。
古いものも決して聴き辛いものではなく、玉石混淆のトスカニーニとしては最良の一枚。
なお、③は公開演奏会での収録で、終わりにややフライング気味の拍手が入っています。④も放送録音とありますが、こちらは客席ノイズなどは一切入っていません。
昔からトスカニーニは楽譜に忠実と言われてきましたが、実際には彼ほどスコアに手を入れた人も珍しいと思いますね。編曲魔というか改竄王というべきか。
ここでは、①②③が聴けば誰でも分かります。
①は推進力に満ちた素晴らしい演奏が続きますが、最後の「花のワルツ」でビックリ仰天が待っていますよ。
まず冒頭のハープ・ソロ。トスカニーニはこれをより長く、更に華やかに改竄しています。
しかし最大の驚きは最後の最後。トスカニーニはチャイコフスキーのスコアを4小節ほど増やして、耳を疑うばかりの編曲をやってのけます。開いた口が塞がらない。
花のワルツにはリピートがありますが、トスカニーニは全て実行。しかも繰り返す時はアーティキュレーションをよりクッキリと演奏させているのが面白いところで、三度の繰り返しに共通しています。
それにしても、これほどトスカニーニ編曲が目立つ演奏にも拘らずレコード評論家が指摘しないのは何故なんでしょうね。(指摘があっても私が知らないだけかしら)
この盤のライナー・ノーツは何人かの分担で、曲目解説も通り一遍もの。鑑賞には何の役にも立ちません。
②は打楽器をチャイコフスキーの指示以上に追加・改編しています。これはトスカニーニに限ったことではありませんが・・・。
一々指摘すると、第356小節2拍目のシンバルは8分音符だけ前へ。これはオイレンブルク版の印刷ミスだと思いますが。
次は405小節から始まるティンパニのトレモロ。チャイコフスキーの指示では409小節まで「ラ」のトレモロが続き、1小節を挟んで410小節に「シ」に至るのですが、トスカニーニは休止せずに409小節をトレモロのまま続け、410小節で「シ」に繋げるように改変しています。
あとはシンバルの追加で、第446、447、448小節、及び、第455、456小節。これらはいずれも3拍目に叩かせています。
1946年という古い録音ながら細部まで聴き取れるので、レンジの狭さを気にしなければ十分に楽しめる演奏です。
③はあまり取り上げられない作品で、あるいはトスカニーニが演奏している版そのものが異なる可能性もあります。
手持ちのベリャエフ版ポケット・スコアで比較すると、練習番号13の3~4小節、7~8小節はティンパニだけとなっていますが、明らかに低い金管の音が聴こえます。恐らく直後のオーケストレーション同様に4番ホルンが低い「ソ」(記譜上で)を吹いているのでしょう。
この処理は、練習番号14の3~4小節、7~8小節も同じ。
次に練習番号16の1~8小節の8小節間、リャードフのスコアにないトランペットが加わっているように聴こえます。
以上は追加ですが、削除もあって、練習番号28の2~7小節にかけてのシンバルと大太鼓、8小節目のシンバルも楽譜に書かれていながらトスカニーニはカットしているようですね。
トスカニーニが極めて速いテンポで煽るように演奏していますので、聴き取り難い個所でもあります。
その他、
⑥の第1楽章第1主題と第3楽章の冒頭では、トスカニーニの唸り声が聴こえます。プロコフィエフは珍しいレパートリーでしょうが、改めてNBC響の名人芸が楽しめる録音。
参照楽譜
①オイレンブルク No.824
②オイレンブルク No.675
③ベリャエフ Nr.521
④オイレンブルク No.834
⑤ベリャエフ Nr.330
⑥ブージー・アンド・ホークス No.33
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