今日の1枚(111)

今回からロシアを離れ、北欧に飛びましょう。ニールセンです。ニルセンと引っ張らない方が正しいそうですが・・・。
1980年代にスウェーデンのレーベル、BISが取り組んでいたニールセン交響曲集から。チョン・ミョンフン Myung-Whun Chung 指揮イェーテボリ交響楽団 Gothenburg Symphony Orchestra による以下のもの。

①ニールセン/狂詩曲風序曲「フェロー諸島への空想旅行」
②ニールセン/フルート協奏曲
③ニールセン/交響曲第1番

②のフルート・ソロは、フランス国立放送管弦楽団の首席を務め、ソリストに転身した頃のパトリック・ガロワ Patrick Gallois 。ガロワのBISレーベルへの初録音でした。

BISは1973年にフィンランドで発足したレーベル。社長ロベルト・フォン・バール氏の父はエンジニア、母はバレリーナだそうで、その所為でもないでしょうが、技術と音楽性が見事にバランスされた録音が特徴です。
今井信子、小川典子、鈴木雅明、広上淳一など日本の演奏家を積極的に録音してきた嬉しいレーベルですね。

このCDが発売された当時の日本には輸入大型店はなく、私は個人輸入でゲットした懐かしいアルバムです。
当時チョン・ミョンフンは指揮者としては未だ全くの無名で、当然ながら日本盤などはありませんでした。
ミョンフンはこのあとパリのバスティーユ・オペラの音楽監督に抜擢され、ドイツ・グラモフォンでメシアンを録音したことで世界的名声を博した経緯があります。

ミョンフンのニールセン全集はジックリ時間をかけて録音され、2年に1枚のペース。定かではありませんが、結局は第4・第6シンフォニーは未録音だったはずです。(BISはこの2曲をネーメ・ヤルヴィ指揮で完成させたと記憶します。その後BISのニールセン全集はヴァンスカの新録音に取って代わられました。)

当CDは未完に終わったミョンフン/ニールセン全集の第4弾、最後のアルバムで、品番は BIS-CD 454 。録音データは、
①1987年5月18日
②③1989年6月14~16日
いずれもスウェーデンのイェーテボリ・コンサート・ホールでの収録。全てプロデューサーは Lennart Dehn 、エンジニアは Mickael Bergek です。

録音会場の音響の良さは数値で実証されていて、アメリカのブエノス・アイレスとボストン、ヨーロッパではウィーン、アムステルダムと共に5大名ホールに選ばれている由。
このディジタル・ステレオ録音はホールの響きの良さを見事に捉えていて、BISの最高水準を代表するもの。

更にBISは使用楽譜も開示していて、①が Skandinavisk og Borups Musikforlag 、②は Samfundet til Udgivelse af Dansk Musik 、③が Wilhelm Hansen 。これは良心的です。

①は珍しい作品で、もしかするとこれが世界初録音かも知れません。日本では今年5月14日に秋山和慶指揮広島交響楽団の定期で演奏されていますから、ナマで聴かれた方も多いでしょう。

当盤では最も古いテイクで、②③に比べて細部がやや不明瞭。冒頭のティンパニ・ソロのみの pp は聴き取れるものの、練習番号2から始まるシンバルの pp トレモロはほとんど聴こえません。3の2小節目にある僅かなクレッシェンドで漸くシンバルが使われているのが判る程度。(これとて装置によっては聴こえないかも)
霧の中に響く海鳥の鳴き声(クラリネットやピッコロ)ももっと鮮明に聴こえて欲しいもの。

Knud Ketting による解説で当曲の作曲から初演に至る面白いエピソードに触れることができます。(スウェーデン語、英独仏の翻訳あり)

最初はホルン、続いて弦と木管の合奏で奏されるフェロー諸島の歌は、デンマークでは“Easter bells chimed softly” という讃歌で知られているそうで、覚えて歌えるほど馴染み易いメロディー。
またこれに続く民族舞踊は、2拍子と3拍子を同時に鳴らす独特の熱狂的なもの。決してオケのアンサンブルが乱れているのではありませんヨ。

②はニールセンの代表作。初演時の楽譜に手を加えた改訂版で演奏されています。(二つの版があることはあまり知られていません)
これはスコアを見ながら聴くことを強くお勧めします。手元のサムフンデト版には、初版による世界初演を指揮した Emil Telmanyi の解説があり、第2楽章の6か所について校訂報告が書かれています。

当盤の演奏は、ほぼサムフンデト版のスコアに忠実に演奏されていますが、最後のオーケストラがディミヌエンドするのに対しフルート・ソロが Sempre f で吹く指示については無視し、ソロ・管弦楽共々ディミヌエンドで終結するスタイルです。

この作品を代表する名盤の一つですが、残念なことに第1楽章でトロンボーン・ソロが半小節遅れで入っている箇所(95~96小節にかけて)が修正されずにリリースされてしまっています。
明らかなミスだと思いますが、さすがのBISチームも気が付かなかったものと思われますね。

③は初期の作品。ミュンフンは馴染無い作品ながら大きな共感を以って演奏しています。第1・3・4小節にある繰り返しは全て実行。

第3楽章のトリオから Tempo Ⅰ でスケルツォに復帰する箇所(練習記号Dの14小節前)は、スコアの指示を2小節前倒しして演奏しています。樂想から判断して適切な処置だと思いました。あるいはハンセン版のミス・プリントかも。

全曲を通して弦楽器の配置はアメリカ式。左から第1ヴァイオリン→第2ヴァイオリン→ヴィオラ→チェロの順に並んでいます。
また、協奏曲では他の作品に比較して弦楽器の数を減らして演奏していることもハッキリ聴き取れます。それだけ優秀録音だということ。

参照楽譜
①カーマス A6381(指揮者用大型楽譜)
②サムフンデト Samfundet (品番なし)
③ウィルヘルム・ハンセン Nr.2882 b

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