今日の1枚(114)

BISのチョン・ミョンフン Myung-Whun Chung 指揮イェーテボリ交響楽団 Gothenburg Symphony Orchestra によるニールセン・アルバムの最終回は、シリーズ第3弾として録音されたアルバムです。

①ニールセン/ヴァイオリン協奏曲
②ニールセン/交響曲第5番

BISのディジタル・ステレオ、品番は BIS-CD 370 。1987年5月15日から18日まで、4日間かけての収録です。
録音場所はスウェーデンのイェーテボリ・コンサート・ホール。プロデューサーは Lennart Dehn 、エンジニアは Mickael Bergek もこれまでのアルバムと共通。

ブルックレット・ノーツもシリーズで統一されていて、Knud Ketting 執筆のもの。

協奏曲と交響曲は恐らく別のセッションでの収録だと思われますが、両者にほとんど差はなく、あたかも一晩のコンサートのように楽しめます。
①は、同シリーズのフルート協奏曲やクラリネット協奏曲に比べてソロがあまりオンに録られておらず、ナマで協奏曲を聴くようなバランスに仕上がっています。この方が自然ですし、それでいてソロ楽器がオーケストラに埋没することなく中央に定位しています。

一方の②はオーケストラを左右一杯に広がりを持たせた収録で、当シリーズでも屈指の優れたディスクと言えましょう。

この組み合わせは単に協奏曲と交響曲を並べたというだけではなく、両曲ともイェーテボリ交響楽団に縁の深い作品であるところが気が利いているところ。
更にこの2曲、共に2楽章から成り、各楽章が大きく前半と後半に分割される構造になっているところも共通点で、1枚のディスクとして実に良く考えられたアルバムであることは間違いありません。

クヌート・ケッティングの解説も単純な曲目解説ではなく、作曲の経緯や演奏に纏わるエピソードに光を当てたもので、資料としても貴重な文章。スウェーデン語の他に英独仏の訳が付けられています。

また、使用楽譜は、①が Wilhelm Hanses 、②は Skandinavisk Musikforlag 。

①のヴァイオリン・ソロはドン=スク・カン Dong-Suk Kag で、カンのBISレーベルへの初録音でもありました。

先に書いたとおり、①は2楽章から成る作品。第1楽章は前半がプレリュード、後半がソナタ形式によるアレグロで、 Allegro cavalleresco という珍しい発想記号が付けられています。再現部の手前に長いカデンツァが置かれているのが聴きどころ。
また第2楽章は前半がポコ・アダージョ、後半は軽やかなロンドの構成。当ディスクはロンドにもインデックスが付けられていますので、協奏曲全体は三つのトラックに分けられています。

ポケット・スコアも出ているハンセン版は、ニールセンの義理の息子に当たるヴァイオリニスト、テルマニー Emil Telmanyi が校訂に携わったモノで、テルマニーのアドヴァイスをニールセンが許諾した箇所が括弧書きで表示されています。(新全集は現在進行中で、協奏曲は未刊だと思います。)

全体の最後、ヴィオラとチェロのピチカートが三度鳴らされる箇所がありますが、何故か当盤では三度目(最後から7小節目)を省略しています。単なる弾き忘れではないと思いますけど・・・。
(弱音なので聴き取り難い場所ではありますが、何度聴いてもこのピチカートが聴こえません)

②は紛れもなくニールセンの代表傑作で、ミョンフン盤はディスクながら緊迫感溢れる名演だと思います。当シリーズの白眉。

練習番号34の2小節目から始まる小太鼓のソロは、オーケストラ全奏から独立したソロを聴かせる独自なスタイルで、偶然性の要素を取り入れた音楽史上最初期の一例でしょう。

更に練習番号39からの「遠方から」と支持されたクラリネットに絡む小太鼓は、別途舞台裏に置かれたイメージ。オケの中で叩く小太鼓が左寄りに定位しているのに対し、舞台裏の小太鼓は中央の奥から遠目に響いてきます。

ところで当録音に使用された譜面は、恐らくエリック・タクセン Erik Tuxen が手を入れた版と思われます。スコアの表ページに「自筆譜に基づいて改訂した」とありますが、ニールセン自身は認めていなかったはず。特に第2楽章の金管やファゴットのパートに小さい楽譜で示されているのがタクセンによる改訂パートでしょう。
ミョンフンは賢くも、これら小文字パートを無視して演奏。補筆が無くとも、作品の素晴らしさは充分に伝わってきます。

なお現在ではニールセン新全集の譜面が出版されていますから、新しい録音はハンセン版によっているはず。ミョンフン盤は旧版による録音と考えてよいでしょうね。

参照楽譜
①ウィルヘルム・ハンセン Nr.1927 b
②スカンディナヴィスク・ムジークフォルラーク(1950年刊。品番なし)

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